クレイジー・キャンディ
御剣ひかる
武力解決班? 望むところだ
01 狭い路地裏で一列になってくるからこうなる
夕刻、タイムズスクエアを颯爽と歩く女は、口の中でドロップをころんと転がしながら辺りに目を光らせた。
事前の情報によると確かこのあたりのはずだな。
心の中でつぶやいて、彼女は華やかな通りから路地裏へと身を躍らせた。
数メートル先に、何人かの人影が見えた。
男が三人、若い女が一人。
どう見ても嫌がる女性を男が囲んで無理やり連れて行こうとしているという光景に変わりはない。
よぉし、ビンゴ。
女は口の端をにぃっと持ち上げた。
ニューヨークは犯罪が多い都市とイメージされているらしい。
実際は二〇〇〇年代に入ってから凶悪犯罪の件数は減っている。
だが一度ついたイメージはなかなか払拭されるものでもなく、また、二〇二〇年からの十年間で、犯罪件数が微増傾向にある。
しょうがねぇよな、実際こうやってそれなりに犯罪はあるんだし、と女はひとりごちる。
「アンタたち、やめときな」
路地裏に入り込んだ女が男達に声をかける。
男達は一瞬ぎょっとなったが、現れた女を見てニヤニヤと笑う。
新たなカモが現れた、と。
侮られていることに女は怒ることなく、むしろ笑った。
女は二十代前半で身長は一六五センチ。シャツにデニムパンツのラフスタイルからして婦人警官などでもない。特に筋骨隆々というわけでもなく、逆に豊満な胸は情欲をそそる。
アイツらの判断なんてそんなもんだ、と女は予測した。
「なんだよねぇちゃん。あんたも仲間に入れてほしいってか」
「いいぜぇ、可愛がってやるからよ」
案の定、男達は下卑た笑いを隠そうともしない。
女は小さくなったドロップを歯でぼりぼりと噛み割って、にぃっと歯をむき出して笑う。
整った顔でやや吊り上がった大きな目の美女だが、そうやって笑うとまるで猛獣だ。
「ふん、もう二十一世紀になって三十年経とうかってのに、ゲスな小物のセリフは古いムービーと変わんないんだね」
女は半身になって戦闘態勢を整える。
「かわいがってやんのはオレの方だよ。ほら、全員まとめてかかってきな」
腕を前に伸ばしててのひらを上に向け、くいっと指を折る。
男達は挑発につられ、吼えながら突進してきた。
路地は狭く、戦闘となると一対一のスペースしかない。
一列に連なってやってくる男達。女は「ほんと、バカだねぇ」と鼻で笑って先頭の一人に蹴りを放つ。
男はもろに蹴りを腹に受けて後ろへ吹っ飛ばされる。もちろん並んでやってきた二人も巻き添えだ。
「ばか、な……。この力……、てめぇ、
地面に突っ伏した男が呻く。
「はーい、正解。その手の知識はあるみたいだね」
女は腰に手を当てて、猛獣の笑みを浮かべる。
「悪人はこの“キャンディ”が許さないよ」
女がコードネームを名乗ると男の一人が青ざめた。
「お、おまえがっ、悪人と見るや襲い掛かり、再起不能になるまで殴る蹴るをやめないってウワサの、“クレイジー・キャンディ”!」
「ひぃぃっ! アレがっ」
「命ばかりはお助けを」
男の言葉に残りの二人も地面に這いつくばったまま震え出した。
「なんだよその巨大なヒレがくっつきまくった評判はっ。クレイジーなんてつけるんじゃねぇ」
キャンディがすごむと、大の大人の悪党三人は「すみません」を繰り返すばかりだ。
「あ、あの……」
誘拐されそうになっていた女性がおずおずと声をかけてくる。
「あっ、存在忘れかけてたっ。もう大丈夫だ。路地裏なんかに入るんじゃないぞ」
キャンディがにししっと笑うと、女性はぺこりとお辞儀をして表通りに走って行った。
「悪人確保。被害者も助かって、作戦成功だな」
キャンディはご機嫌でスマートフォンを取り出した。
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