第5話

設定は考えた目標も決まっている。であれば、残りは行き先だけだ。


行き先、今回は人がまだ、ある程度の社会性を保ちながら生き延びていそうな場所だが、ある程度安全性が確保しやすいところに限られる。

出来損ないたちは基本的に知性を示さないが、体の傷を一切考えない分、単純な馬力だけで言ったら同じ状態の人間よりもかなり高い。

しかも、傷の治りが人とは比べ物にならないくらい早く、疲れ知らず。また、一度人の姿を捉えると数時間はそこに侵入しようと押し掛けるので、一面ガラス張りの建物内にでも逃げ込もうものならすぐに吹き抜けの建物に変身するだろう。


引きこもるのはコンクリートなんかで作られた頑丈な建物、出入り口などから中が見えない構造か、何重にも壁を作れる建物。


ここに、大人数がある程度社会性をもって生活できる建物、と条件を加えると、この町にある建物で当てはまるものはショッピングモールか高校の二つくらいだ。


この二つで、どっちの方が沢山人が集まっていそうか。


まず、近所の緊急避難先なんかをまともに守りようなまじめな人は高校に行っているだろう。敷地の周りにはそこそこ頑丈な覆いがあり、階段ごとに防火シャッターが下ろせるから、各階ごとの安全性の確保がしやすくいたろところに刺又さすまたが置いてあることから、多少の出来損ないが現れたとしても簡単に拘束、その後の処理ができる。無難に考えたらそれなりに未感染者が多いはずだ。


次にショッピングモール。正直なところあまり見るべきところがないこの街で、唯一と言っていいほどほかの町からの客を招いていた施設だ。見晴らしのいい敷地はきっと多くの出来損ないを駐車場まで招くだろうし、全ての出入り口を塞ぐこともなかなか難しい。

具体的に事態が発展した時間はわからないが、開店中であれは店内にもそれなりの出来損ないがいたことだろう。そうなれば、店内のどこに隠れているのかわからないそれらを探しながら安全確保に励むのは、大変なことに違いない。

諸々の条件が揃ったときには、その潤沢な物資もあって一大拠点になりうるだろうが、非感染者の数が少なく一区画に纏まっている程度であれば、私がなにかするまでもなく遠くないうちに感染するだろう。


そう考えると、メイン目標は高校の方になる。


ならば、先に高校を攻めるべきだろうか。


そう考えるのもありかもしれないが、じゃあ紛れ込みやすさはどうだろうか。


高校が既に安全確保を済ませているとすれば、出入りするものの感染確認もし、内側からやられることのないように気を使っているだろう。


よっぽどのヒューマンエラーか悪意による凶行がなければ、食料のもつ限り大きく数を減らすことは無いと考えられる。



では、ショッピングモールの方はどうだろうか。

出来損ないがまだ建物内にいる間、内部の人達が集まりきれていない間であればなんの疑いもなく入れるだろう。しかし、ひとたび安全確保を済ませてしまったら。


高校も同じではあるが、安全が確保された時点で、基本的には新しく人を増やす理由はない。食料は無駄に使うことになるし、人が増えるので争いだって起こりやすくなる。

それに対して得られるものが自己満足と1人分の労働力だけなのだから、聖人君子のような善人か、受け入れなければならない理由がある人達でない限り、よそに行ってもらいたがるだろう。


それを覆すには、よっぽどの利用価値を示すか、そうでなければよっぽどの同情を誘う必要がある。



さて、ここまでで考えてきたことが当たっていたら。どちらを先に攻めるべきか、一目瞭然だろう。やりにくさが真ん中くらいでずっと据え置きの高校と、最初は楽だが時間と共に面倒になっていくショッピングモール。なんなら、ショッピングモールという食料庫から安定して食べ物を持って行けるのであれば、高校の受け入れ難易度は下がりすらするかもしれない。


当然、ここはショッピングモールを先にどうにかするべきだ。



私はそう自分の中で結論付け、これから先に、のためにできることを思って思わず笑みをこぼした。


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