第4話
私の仲間は、つぶらな瞳の化け物になっていた。急いで町中を駆け回って、ようやく見つけた生きている電子媒体で情報を集めたところ、音と動きに反応する、このおぞましい化け物たちは、徘徊している人型に見つかったら最後、頭部を切り落とすか体に浮かんだ瞳をすべてつぶすまで追いかけてくるらしい。
もしおいつかれたら、噛まれてめでたく化け物の仲間入り。発症までの時間はその時によって異なるものの、頭に近い場所をかまれた人のほうが短い時間で発症する傾向にあるらしく、何かしらの原因体が脳まで到達することで感染が広がると考えられているとのこと。この原因体は、おそらく私の中にも寄生しているこの寄生生物だろう。というか、今更それ以外のものがこの事態の原因だなんて言われたら、それはそれで問題が発生したとすら言えるかもしれない。幸か不幸か、予想通りか否かはひとまずおいておくとして、この、寄生生物たちにとってすら予想外の出来事の原因はまごうことなく、彼ら寄生生物に起因するものである。
そのことは、私のなかに残っている、寄生体に対する命令、"人に寄生し、脳を支配して主導権を奪え"と比べてみても、妥当性が高い。
であるならば、この目の前に広がっている私と同じものの出来損ないたちは、私に、私たちにとって、
本来であればだれにもばれないうちに寄生主同士で集まり、私たちが人類の多数派になるまでは水面下でゆっくり仲間を増やしていくか、多少国家権力に悟られてもばれないように時間をかけて増やしていくはずだった。
けれど、こんなにも多くの出来損ないたちが蔓延ってしまっては、すでに隠れて増やそうとすることすらできないではないか。
そこまで考えて、現状のあまりのひどさに頭が痛くなってきた私は、腹いせに目の前をのんきな顔をしながら通り過ぎたサラリーマン風の出来損ないを殴りつける。寄生された影響か否か、想定よりも目に見えて威力の高かった私の拳はたやすく出来損ないを吹き飛ばし、コンクリートブロックの塀にたたきつける。
予想以上の威力と、曲がってはいけない方向に曲がってしまった出来損ないの体を見て、やりすぎてしまったと青ざめたものの、次の瞬間には勝手に修復を始めたのを見て、心配することをやめた。そりゃあ頭落とすか瞳をつぶさない限りどこまでも追いかけてくると書かれていた化け物だ。骨の五、六本くらいおられたところで何も問題ないだろう。出来損ないの彼は、何事もなかったかのように立ち上がると、裂けた胸部からグジュグジュと液体を垂らしながら蠢き、内側から盛り上がり、次の瞬間にはヌチャッ!と元気よく開眼する。体中にぽつぽつとおしゃれなお目目を浮かべた素敵な出来損ない君は、体の中心にいかにも弱点っぽい巨大眼球を抱えた、つわもの感あふれる雑魚出来損ない君に進化したのだ。
大きな瞳をぎょろぎょろさせながら、出来損ないは去っていく。当然、というべきか、私に対して一切の関心を向けることなく。殴り飛ばされた怒りも、新しいステージに上らせてくれた感謝も何もなく、ただただ出来損ないは立ち去っていく。これならばストレス発散のサンドバッグ替わりか、隠れている人に対する嫌がらせくらいにはなるのかもしれない。
私の中で、出来損ないへの評価がほんの少しだけ上がった。
とはいえ出来損ないに対する評価が多少変わったところで、現状が悲惨極まることに変わりはない。相も変わらず、頭の中で叫び続ける声はうるさいままだし、頼りにしていた仲間は出来損ないだし、人は隠れてしまっている。
私たちの目標には、
そう考えると今の状況もそこまで悪いものじゃない気がするのだから、人生、本当に考え方が大事である。
さて、物事の考え方を少し変えてみよう。さっき調べた時に見た限りだと、今のところ、
であるなら、今のうちに人々の輪の中に転がり込んでしまえば情報も集め放題だし、感染も広げ放題だ。誰の目から見てもわかりやすい敵がいる以上、人とそこまで大きく見た目が変わらない私は、たやすく人として受け入れてもらえるだろう。問題はどうやって感染を広げるかだが、これに関しては記事に載っていたことと、私自身が本能的にわかっていることに違いがないので、とりあえず噛みつけば何とかなるということはわかる。
なるべく頭に近いところ……肩や首などに噛みつくと早く感染が進み、比較的ではあるものの露出する瞳の数が少ないものに仕上がる。本能的に察している感覚に近いものが根拠なのであまり説得力はないようにも感じるが、生物が生れてからすぐにとる行動は本能に基づいたもので、それで多くの生き物が生存に成功しているのだから、あながち否定はできないだろう。
なぜ噛む位置と出来損ないの仕上がりの関係が頭の中にあるのか??本来うまくいけば出来損ないなんてできないはずであるし、こんな状況になっていること自体が異常事態な気もしなくはないが、事実としてその知識が頭にある以上、そこは気にしないほうがいいことだろう。
噛んだりした感染個所から目がでて、その後半径十センチ程度の範囲に複数個転移、それを脳に届くまで何度も繰り返すから足なんかを噛まれた人は他とは比べられないほど全身目玉まみれになることや、目が出るタイミングよりも少し前に転移が済んでいるから出てきた目をつぶしても感染したことに変わりがないことなど、いったい何に使えるのかわからないような知識も知らないうちに知っていたが、これも気にしないことにする。
ひとまず、今の私にとって大事なことは、彼の目的を果たすために努力しなければいけないということと、そのためには人々の避難先に紛れ込むのが一番手っ取り早いであろうことだけなのだから。
さて、積極的に人の輪に入ることは決まったので、これからどのようにふるまうかを考えるわけだが、かろうじて残っている記憶はさっき確認した端末と比べても1週間以上の差があった。テレビで暴動がどうのとかいう話を聞いた記憶があるから、私が気を失っていた時間は、おそらく騒動の始まった時間とそこまで大きく変わらないだろう。
ならば私は、騒動直後から数日間、危険を感じて引きこもっていたものの、食料に不安を感じて恐る恐る家から出てきた町民Aあたりを装っておけばきっと怪しまれない。
私がこうなっていなければ実際に取っていたであろう行動とも一致するし、何より、この設定であればほとんどの人が知っているであろう出来損ないたちの情報を知らないことにも説明がつく。
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