第3話

そこまで自問自答して、ようやく私は動き出した。確実に確かなことは、私はこのままだと"謎の疾患に侵された一般人"として、問答無用でされてしまうということ。同じようにの意思に賛同するように作り替えられた存在は私以外にもたくさんいるだろうが、この世界において、感染能力と統一された思想以外特筆すべきものがないは、その潜伏期間の短さも相まって一度対策を取られてしまったら、感染を拡大させることは極めて困難だろう。


そうであるならば、私はのために、精いっぱいの知恵を凝らして感染を広げなくてはならない。たとえそれがどんなにできの悪い作戦であったとしても、考えないという選択肢はない。なぜなら、それが私の存在意義なのだから。そのためであれば、たとえ自分自身の命であっても差し出せる。


とはいえ、いくら覚悟を重ねたとしても、実際にできる行動には限りがある。だから、ひとまずは自分に何ができるか、他のには何ができるかの現状確認だ。


まずは思考、これは感染前の私と同等か、ともすればそれよりもクリアだろう。そもそもの頭が飛びぬけていいわけではないことを除けば、全く問題はないと言っていい。

次に思想だが、以前の私と比べるとに侵食されている分幾分か過激ではあるものの、としては何ら問題ない。

そして外見。あまり人々にばれないように感染を拡大させていくためには一番重要な要素であるが、幸運なことに、鏡を見た限り、多少顔色が悪いことを除けば十分に人間として通用する範囲の異常だったので、軽く朱を差す化粧品でも探して使ってみればあまり気にならないだろう。つまり実質問題ない。


となると現在大きな問題はないわけだ。それなら、いつまでも机上の空論に過ぎない考えを続けているよりは、実際に人類がどうなっているのか、がどのような行動をっとっているのか把握することのほうが有意義になるだろう。人々が私たち感染者の識別を済ます手段を体系化していて、なおかつそれが一般化していない限り、あるいは、人々が極めて疑心暗鬼に陥って少しでも怪しいものは全て処刑するといった極端な思想に毒されていない限り、すぐに危険な目に合うという可能性はないと言っていいだろう。


そうであるならば、私は一度家から出て、あるいは何かしらの手段で外部の情報を入手して、情報を少しでも増やすべきだろう。すくなくとも、今わかっている情報だけで判断することは下策中の下策だということは確かだ。


記憶に問題がないのをいいことに、勝手知ったる我が家で、寒さを感じないながらも季節感を考えて肌の見えない服を着て、帽子を少し深めに被ることで目立たないようにしてから玄関を開ける。


平日の昼下がりの、平時ですら人通りの全くない閑静な、ぶちゃけ過疎な住宅街。案の定というべきか、そこには人っ子一人見かけることがなかった。ひとまず、この場で見つかってすぐさま通報されることはないだろう。安全確保。


この後どのように動いていくかだが、可能であれば感染者たちと会って現状確認と、これからの方針について相談したい。そのうえでできるのであれば、非感染者である人間の人たちの現状を確認できる状況を整えたうえで、彼らの中に溶け込んでしまいたい。その中でさらに感染を拡大できれば、まさにこの上ない結果だろう。


とりあえず今目の前には感染者も非感染者もどちらもいない。探してみようにも、この辺りは少し大通りまで出ないことにはそもそも人通りすらない。直接見れば感染者と非感染者の見分けがつくことはなんとなく知っているものの、実際に会ってみないことには何とも言えない。


どことなく違和感を感じる風景から目を背けながら通りに向かって進んでいくと、そこには中途半端に止められた車が何台も何台もまとめて乗り捨てられていた。


「……はぁ?」


おもわず放心してしまう。


この寄生生物のそもそもの目的は、人々の意識を深いところでつなげることによって過去に例を見ない、全世界単位での思想の統一、および価値観の共有を図り、この世の中からありとあらゆる人間同士の争いをなくすことだ。その過程こそ大きくゆがんでいるものの、平和と平等を求めるその意志は、人によっては同調することすらあるだろう。


だが、今私の目の前にはびこっているはいったいなんだ?

通り一面にまき散らされた、黒ずんだ肉片。そのいたるところに生えている、まん丸で真っ黒なつぶらな瞳。おおよそ現実とは思えない、異界のような街並み。そして、その街の中を我が物顔で闊歩する、全身のいたるところに真っ黒でつぶらな瞳を浮き上がらせた、異形の化け物たち。

うそのような光景だ。夢のような光景だ。当然悪夢だが。


そして、なんとも恐ろしいことに、徘徊する彼らは、散らかった肉片から浮かびあがっているそれらは、まごうことなき、私の同類だ。感染者たちだ。どこからどう見ても、異形の化け物にしか見えなくなってしまっているそれは、ものによっては、体を引きずるとともに変な色の体液の軌跡を残しながらずるずる這いずり回っているそれらは、私がともに目標をたてるべく合流を目指していただった。

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