第64話 狂戦士と魔女(リトア)
タウリアが帰ってきて翌日。
予定通りに転移魔法で王都に降り立った私たちは壁に寄りかかって人を待つ。
空は快晴。いい奇襲日和だ。
タウリアは自信ありげで、今日中に『聖剣士』を一掃できると言い切った。
よほど綿密な計画らしい。
けれどあの高揚した様子だ。どうも他に何か秘めていそうな気がする。
共通の敵を倒せばその瞬間から私たちは敵同士。タウリアが腹の底の本音を教えてくれることはない。
しばらく待ちぼうけし、流石に退屈を感じ始めた頃。
視界の奥に二つの人影を認める。
その輪郭がこちらに近づいてくると、それが見知った顔だとわかった。
「よー! 久しぶりだなあ!」
快活でよく通る声が鼓膜に響く。
焦茶の髪を一本に結び、東方の儀式装束を纏った女。
「久しぶりね、クウホウ」
「おっす、リトア。それにタウリアも」
「ああ」
軽く手をあげてフレンドリーに挨拶をしてくるクウホウ。
『狂戦士』の職業を持ち、徒手戦闘においては私たちの中で群を抜いている。
職業柄あらゆる武具に精通しているけれど、本職である私には槍の腕は劣る。
それでも単なる『騎士』くらいであればいくら束になっても彼女には届かないだろう。
私個人としては、敵対したら最も手を焼く相手だと思っている。その闘争心もさることながら、彼女は天性の武の才を持っている。
「久しぶりー。リッちゃん、ターちゃん」
「半年ぶりくらいかしら」
「そんなにか? つかリトアその目どうしたんだ?」
「ああ、これは……」
「ワタシは無視かな!?」
私は仕方なくクウホウの横で騒ぎ立てるナマモノに目を向ける。
意図的に視界の外へ追いやっていたというのに、厚かましく存在を主張してくるなんて身の程知らずなことだ。
「あら生きていたの?」
「半年ぶりの再会なのにひどくない?」
「イカレサイコパスが。よくもそんな口が聞けるわね」
「口悪いよリッちゃん! ねえターちゃん!?」
「リトアに同意だ。軽々しく話しかけないでくれ」
私と同様に冷めた目で睨むタウリア。
「うわーん」と嘘泣きでクウホウの胸に飛び込む女の名はランシア・ラピスラズリ。『魔女』の職業を有するゴミクズだ。
平気な顔で私たちに話しかけているが、この女の過去の所業をこの身で体験している私たちからすれば殺意が湧くだけ。
「おーよしよし」
「ワタシの味方はクーちゃんだけだよー」
泣きつくランシアの頭を撫でるクウホウ。
クウホウはランシアのことを許しているようだ。あまり物事を複雑に考えない性質だからだろう。
「まあ、普段の行いだな」
「クーちゃんまで!? ここにワタシの味方はいないのかー!」
うるさい。
「それで、アルテナは? まだ来てないのか」
「アルテナは来ないわよ」
「はー?」
クウホウは顔を顰めて首を傾げる。
どうやらタウリアはアルテナが裏切ったことを伝えていなかったようだ。
私はタウリアを睨むと、そっぽを向いて我関せずという態度を見せる。
情報共有を忘れていたようだ。
ここでタウリアを責めても意味はない。
私がクウホウに伝える。
「アルテナは裏切ったわ。今は『聖剣士』どもと組んで私たちと敵対中」
「は……? 嘘だろ?」
「事実よ」
口を開けて唖然とするクウホウ。
対してランシアは得心いったというような顔をする。
「あーなるほどね」
「どういうことだよランシア。オマエずっとアタシと一緒にいたじゃん。知らないのアタシだけなのか」
「いやさ。このまえワタシの〝信徒〟が『聖剣士』の力に反応したから視覚共有したんだけど、首が飛ぶ寸前にアルテナも映ったからさ。
なにしてるのかなー。邪魔しちゃったかなー。って思ってたんだ」
「おま、そういうことアタシに教えてくれよ!」
「いやあ言うほどのことでもないかなって」
「そういうところだぞランシア!」
クウホウはランシアの肩を掴んで激しく揺らす。
「マジかよ……昔は『クー姉さん』ってアタシの後ろをついて来てたのに」
「そういえばあなたはアルテナを妹分のように可愛がっていたわね」
両手を無気力に下ろして意気消沈するクウホウ。
彼女は必要以上に他人に感情移入しすぎるきらいがある。
『聖剣士』を皆殺しにした後は殺し合う関係だというのに、実力があるぶん残念だ。
「さて、再会の挨拶もこのあたりでいいだろう。そろそろ本題に入ってもいいかな」
一歩引いたところから私たちを静観していたタウリアが切り出してくる。
「ええ、構わないわ。時間もないでしょう」
「その通りだ。招集会はすでに始まっているからね。ゴミ――ランシア、先日伝えたことは覚えているよね」
「いまゴミって言わなかった?」
「言ってない。それで、数の方はちゃんと用意してくれたのか?」
「もちろん。できるだけ多く欲しいっていうから、そりゃもう総動員さ。王都くらいなら一時間で落とせるよ」
「結構だ」
頷いて自信満々に答えるランシア。
私は気にかかって質問する。
「あなた、いったいどれだけ蓄えているの?」
「一万六千三百七十七。あ、いまひとつ減った。進行の途中で潰されたみたい」
私はランシアを睨む。
この魔女。クウホウと一緒に行動していたらしいから大人しくなったと思っていたけれど……しっかり準備はしていたようだ。
「そんなに怖い顔しないでよ。みんなのために、全部使うからさ」
「だといいけれど」
嘘に決まっている。
どうせまだ〝信徒〟を蓄えているか、切り札をとってあるはずだ。
「『聖剣士』を皆殺しにしたら真っ先にあなたを殺すわ」
「え、なんで?」
「まあまあ、落ち着けリトア。こう見えてランシアは丸くなったんだ。以前のようなことはしでかさないさ」
クウホウが私たちの間に入って仲裁する。
人のいいクウホウを利用している可能性も否めない。むしろそうでしかない気がする。
私は外面だけは退いたふりをして、タウリアに目配せする。タウリアは頷いて話を進める。
「さて、それでは作戦を説明しようか」
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