第6話 洋服をトイレと買いに行った……そして、
「本当にそれで良かったのか?」
訊ねられた
「うん! やっぱり
真っ白なワンピースの裾を可憐にふわりとひるがえした。
そして、彼女は買い物袋を提げる俺の隣へ並ぶと、ニコニコしながら歩き出す。
鼻歌でも歌いだしそうな横顔に、お昼のリクエストを訊ねた。
「なあ、昼は何食べたい?」
「んー?
「お? 言ったな。今度は絶対に綺麗に焼いたやつ食べさせてやる」
ぐっとガッツポーズを決めて宣言すると、陶子は悪戯っぽく笑い、
「あ! それとね!」
そっと俺の利き手――人差し指に触れ、真新しい絆創膏をさすると優しい口調で続けた。
「……できれば、あんまり怪我しないやつが良い」
しおらしく、しゅんとした声色が胸を締め付ける。
だから、そんな彼女の顔は見たくないと、
「大丈夫だ!」
力強く、言った。
「もう怪我しないし、絶対おいしいの作る! なっ?」
すると、陶子はそっと手に触れながら、
「……うん。楽しみにしてる。だから、おいしいの食べさせてね」
はにかんで、食事が楽しみだと言ってくれたのだ。
◇
家に帰ると、俺は昼食の準備をしながら感慨に浸っていた。
陶子が初めて味噌の握り飯をおいしいと言ってくれてから、色々と俺達はわかったり、変わったことがある。
あの時、陶子がおいしいと言ったのは『味噌』という食材を使ったことは関係がなかった。
どうやら彼女は俺の『手料理』を食べた時のみ、おいしいと感じてくれるようだ。
おかげで、料理の本を片手に、今もこうして炊事場に立つはめになっている。
だが、
「ねぇ! もうできた?」
狭いリビングで小さなテーブルの上に頬杖をついてこっちにキラキラと向ける顔が、どうにも癖になってきた。
◇ ◇ ◇
最近、陶子は変わった。
家事が上手になったし、何よりおしっこを飲みたいと言わなくなった。
でも……そんな陶子の姿に不安も感じている。
だって、陶子は――ただの女の子じゃない。
彼女は、便器だった女の子だ。
現に、今も陶子は白い服を好んで来たり……トイレとしての自分を好ましく思っている。
その過去――事実を、否定することはできない。
だから、ちゃんと訊いて確かめなくてはいけないと思った。
今後も、陶子と一緒にいるために。
一方的に我慢させるだけの関係は……もう、こわいと思ってしまうから。
◇ ◇ ◇
「なあ、陶子……おしっこ、飲みたいか?」
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