第2話 新しいトイレがやってきました!
「ありがとうございました」
トイレの施工が終わり業者の方々に頭を下げる。
だが、彼女は違った。
前職がトイレである少女は、新品の便器を今すぐにでも壊したそうだ。
「ねぇ」
そして、その攻撃的な瞳が今、俺へと向けられる。
「なんで私がいるのに新しいトイレが来たの?」
「……君がもうトイレじゃないからだろ」
直後、彼女は自分の胸に手を当て、
「だからっ!」
と、力強く吠えた。
「見た目は人間だけど、中身はトイレなのよ! 使えばわかるわ、何も問題ないから!」
「いや、問題だらけだよ! 今の君を
「は? 何言ってるの? 漏れる前に私で済ましちゃえばいいじゃない」
「漏れるってそういう意味じゃねぇよ!」
しばらく二人で睨み合う時間が続く。
だが、急に彼女は視線を逸らし「ふんっ」と言って唇を尖らせた。
「どんな姿になっても、私にはトイレとしての誇りがあるわ」
「水に流してくれよ……そんな糞みたいな誇り」
「うるさいわね。あんただって急に自分の仕事を取りあげられたら怒るでしょ! 私は人間に転生しても、無職に転生した訳じゃないわ!」
美しい銀髪を振り乱しながら怒る少女の姿に、はからずも「そうか」と頷く。
つまり、彼女は便器としての役割を失うことで、自分が用済みになると恐れているのだ。
今まではトイレとしての役割があった。
しかし、突然人間になり『もうトイレはできない』と言われたら混乱もするだろう。
だったら、と。
「……なあ?」
「……何よ?」
人を恐れる野良猫のような少女に、できる限り優しく提案した。
「良かったら、他に君にできる仕事を探してみないか?」
しかし、
「は? 嫌よ、そんなの。意味わかんない。黙ってズボン下ろしなさいよ、脱がすわよ?」
……どうやら、何か間違ったようだ。
「……だって、さっき無職は嫌だって」
「言ってないわよそんなこと。だいたい私は今も
彼女の美しい顔立ちは、眉間によったしわが原因で般若のようになる。
「……そっか」
そんな恐ろし気な少女から目線を逸らし――、
「あっ、ちょっとっ!」
――新しく施工されたトイレに入ると、中から鍵をかけた。
「こらっ! 出てきなさい浮気者っ! そんなに新しい便器が良いの! 温便座が好きっ? 私にくれた便座カバーは憐れみでしかなかったのねっ!」
ドンドンドンとドアが叩かれる中、頭を抱える。
「はあ……」
この時、自分の予想以上に、彼女がトイレという仕事へ固執していることを知った。
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