羽がなくても飛べる


「楽しんだもん勝ち、かぁ...。」

 その言葉は私の中にストン、と落ちていくようだった。


「そう、だからあんまり深く考えない方がいいかも。行き詰まったら、何か楽しいこと考えてもいいかも。」

『じゃあ練習始まるから行くね。』と、先輩は自分の練習場所へ歩いていった。

 先輩に言われた通り、少し違うことを考えてみる。自分の好きなこと、楽しいと思うこと......。



 私は小さい頃から、空を飛ぶことに憧れていた。空を飛ぶ鳥なんかがとても羨ましかった。自分で『空を飛ぶ方法』を必死に考えて、高いところに登ったのは言いけれど、そこから自分で降りられなくなってしまったことがあった。今思い出すと、とても懐かしい。

 それからしばらく時間が経って、『自分の力で跳んだ距離を競う種目』があることを知った。

 

 実際に跳んでみて、不思議な感覚になったこともよく覚えている。それくらい、私の空を飛びたい気持ちは強かった。きっと誰よりも。

 羽がなくても飛べることは、他のどんなことよりも嬉しいことだった。


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