あと少し

 その日から先は、時間があっというに過ぎていった。メンバーだけで練習する機会が増えて、それぞれの不安なところをしっかり確認していく。課題をどんどんクリアしていく他のメンバーとは違って、私はなかなかクリアできずにいた。


「ふぅ....。」

 深呼吸して、考える。

『絶対大丈夫、できる。』と自分に言い聞かせて、もう一度スタート位置に着く。


「うわぁ.....もう少しなのに....。」

 思わずため息が出る。いつになったらクリアできるのか、私にはまだ分からない。せっかく選ばれたのだから周りの期待に応えたい。そんな想いが頭の中を埋め尽くす。


 ✱✱✱


「お疲れ様、どう?」

 練習の休憩時間に、先輩が声をかけてくれた。


「ちょっと、スランプ?というか....上手くいかないことが多くて......疲れちゃいました。」

 私は先輩に心配をかけたくなくて、精一杯笑顔を作った。すると先輩も笑って『やっぱり』と小さな声を出した。



「気づいてたんですか?」



「何となくね!なんか似てる気がして。」



「え?」



「私が初めて試合に出た時と似てるなーって思ったから。」

 そう言うと先輩は、自分が初めて試合に出た時の話をしてくれた。


 ✱✱✱


「私が初めて試合に出た時はね?ちょっと雨の降ってた日だったの。」


「はい。」


「おまけに練習でもいい結果が出てなくて、すごく緊張してたし、いい結果出さないといけないって自分にプレッシャーをかけてたの。」


「.....。」


「でもそんなのじゃ、いい結果なんて出るわけなくてさ....トラック走ってる途中で転んじゃったの。」


「え....うそ....。」


「その試合のあとは、すっごく悔しかったよ。やっぱり。」

 そう言ったあと、先輩は笑顔を作って....


「試合の後にね、当時いた先輩が言ってくれたの、試合は楽しんだもん勝ちだって。」

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