第6話 皇子

業務日報

 驟雨の月二十日

 記録者 コンス侯爵家冒険公社 スーナ支社長 男爵サイアム

 損害報告がようやくまとまった。金銭的には受けた損害よりまとめて討伐した魔物の素材の純益がうわまわったため黒字となる見込みだ。だが、優秀な社員を失い、委託を受けてくれる冒険者も二十人近くが失われ、雨季があけたあとの夏の営業に支障が出ることは避けられない。

 そしてなによりわれらの客人はこの件で目立ってしまった。「友人」も打つ手がないのか何もいってはこない。ツァーン侯爵家の検分も延期になってしまった。

 客人が気になる可能性を示唆している。このダンジョン氾濫は意図的に起こされたのではないかというのだ。伯爵領のダンジョンはスーナ伯爵が入場料を課すため人気がない。くわえて雨季で誰も間引かないから起きたことではないか、そう思われていた分聞き捨てならない。

 しかし、仲間と伯爵のダンジョンを確かめに潜った客人は証拠を見つけることができなかった。念入りに隠滅された跡だけがあったそうだ。


業務日報

 驟雨の月二十四日

 記録者 コンス侯爵家冒険公社 スーナ支社長 男爵サイアム

 収支報告は帳簿の通り。

 本日、要塞都市クロイツより弊社荷駄隊到着。予定通り出荷分を積み込み明後日出発予定。会計員イノスが要塞都市から応援にきてくれたが、正式な要員補充はまだ少し先らしい。

 雨季が終わったため、ゴブリン村と所定の取引を行う。人手はたりないが、ようやく平常運転にもどってきた。氾濫のときに自分たちだけ避難したので、伯爵はゴブリンたちに懲罰を加えようと思ったらしい。止めるのが大変だった。

 まだ正式に服属してない彼らにまだ義務はない。警告を行ってくれただけでも十分信義を守ってくれていることになる。伯爵の兵士の被害が大きかったのは、彼らが油断していたせいだ。死んだヨッヘンはちゃんと伝えていた。

 荷駄隊とともに手紙がいくつかついていたが、ひときわ豪華な一通は皇室からのもので、皇室として慰問と功績者に叙勲をするとある。客人の偽名もしっかり書かれているので逃げようがない。まずい。皇室の誰が来るかは明らかだ。客人と相談するが、彼はもうあきらめた顔をしていた。

 侯爵家あてに急使をたてることにする。このままでは、密猟やダンジョン氾濫どころではないことになる。



 

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