(5)
9.
僕は喫茶店を出ると、道玄坂のテナントビルであるプライムの前の信号が変わるのを待ちながら、腕時計を見た。まだ三時を回ったばかりだった。一応、会社に電話を入れることにした。携帯で電話すると香取さんが出て、特に連絡事項はないとのことだった。こういう生真面目なところがA型なんだよな、と僕は思った。他の連中ならどうせ携帯持ってるから、と半日は連絡を平気で入れないところだ。いずれにしろ、と僕は思った。不動産屋に寄るにしても、まだ時間に余裕はある。気分転換にちょっとHMVに寄ってCDでも見ていこう。
なんとなくそんな風に思って、プライムを抜けて東急本店通りに出ることにした。信号を渡って、プライムの中に入ると、一階は工事中だった。もぬけの空となったテナントの間を抜けると、占いのブースが立ち並ぶ通路だけは相変わらずだった。まだ平日の昼間だけあって、客はほとんどいない。すたすたとそこを通り抜けようとすると、最後の、そこだけぽつんと離れてあるブースから声がかかった。
「そこのあなた」
へ、と僕は振り向いた。見ると、数珠やら何やらをこれでもかと身に付けた、派手な修験者のような格好をしたおばさんが、陰気臭い顔でこちらを睨んでいた。
「な、なんですか?」眼光の鋭さに気圧されながら僕が訊き返すと、おばさんは怖い顔で睨みながら、ドスの効いた声で言った。
「気をつけなさい。悪霊が憑きかけておる。それに死相も出ておる。だが、心配することはない。今ならまだ間に合う。気をつけることじゃ」
おばさんは目を見開いて大袈裟なイントネーションで言った。僕は易だのなんだのと字が一杯並んでいる中に、除霊という文字を見つけてぞっとした。何より、死相というのは穏やかじゃない。僕はおばさんのブースの「四方堂雅子」という名前を見て、シホードーマサコと読むのだろうか、と考えながら、相変わらず睨みつけるおばさんに魅入られたように言った。
「あの、いくらですか?」
「今回はサービスじゃ」シホードーマサコは搾り出すような声で言った。
「どうも」
僕が立ち去ろうとすると、シホードーマサコは僕の背中に追い討ちをかけた。
「それからもうひとつ、女難の相も出ておる。気をつけなさい」
僕はカンベンしてくれよ、と思いながら、振り返らずに逃げるようにその場を後にした。
田園都市線の吊革に捕まりながら、悪霊ってなんだよ、悪霊って、と思っていた。テンコが悪霊だって言うのか? だったらオレは悪霊のファンクラブに入ってもいいぞ。それに初対面の人間に死相はないだろう。癌の宣告だって、医者は家族と相談してもう少し慎重にやるぞ。僕は心の中で毒づきながら、それでもシホードーマサコの異様に説得力のある眼光がアタマの片隅に引っ掛かって離れなかった。
駅に着くと、僕は真っ直ぐ不動産屋を目指した。あの陰気な顔をしたおっさんの名前はなんて言ったっけ? 家中引っくり返せばどこかに名刺があるはずだが、確か名前まで陰気な名前だったような気がする。
さすがに駅から三十秒だけあって、あっという間に着いた。表から覗いてみると、カウンターの向こうに例の葬儀屋のような顔をしたオヤジがいた。僕は安堵の息を洩らすと、ガラス戸をがらがらと開けた。
いらっしゃいませ、とカウンターに座っている女の子が笑みを浮かべながら声をかけてきた。例のオヤジはひとつ奥の机で下を向いてなにやらごそごそとやっている。
「あの」
「はい?」女の子は満面に営業用の笑みを浮かべた。
「あの人」僕は女の子に顔を近付けると、オヤジを指差して、声を落として言った。「なんて言いましたっけ?」
「黒原ですか?」
「あ、そうだ、クロハラさん、黒原さんとお話が」
「ちょっとお待ち下さい」
そう答えると、女の子は黒原のところに行って、耳打ちした。黒原は顔を上げると眼鏡を持ち上げて怪訝そうに僕の方を見た。どうやらまだひと月も経っていないというのに、もう僕の顔を忘れているらしい。
女の子は自分の席に戻ると、カウンターの前にある応接セットを指差して、そちらにおかけになってください、と言った。僕はどうも、とだけ答えて合成皮革のソファに腰掛けた。
のろのろとカウンターを回って、黒原は応接セットまで来て僕の向かいに座ると、禿あがった額に皺を寄せながら探るような調子で言った。
「あの、失礼ですが、どちら様で……」
「安川です。万寿ハイツの」
僕がそう答えると、黒原は膝を叩いて、あ、ああ、ああ、と言いながら一応笑顔らしきものを作ってみせた。
「安川さん。二〇二号室の。これは失礼しました」
カウンターの女の子がどうぞと言ってお茶をふたつ、テーブルの上に置いた。
黒原はそのお茶を持ってすすりながら、顔だけは妙な笑顔を作りながら探るような上目づかいで言った。
「それで、今日はどういう御用件で?」
僕は腹を括ろうとお茶をぐいっと飲んだ。飲んでから酷く熱いことに気がついたが、もう遅かった。僕はあちち、と叫び出したいのを顔に出さないようにこらえながら、それでも目尻の端にちょっと涙が浮いてしまったが、きっぱりと言った。
「単刀直入にお訊きします」
「は?」黒原は呆けたように口を開けた。
「あの部屋に僕の前に住んでいた方について」
僕が睨みつけるように言うと、黒原は口を開けた形のまましばらく固まっていた。僕は構わずたたみかけた。
「川島典子さんについてです」
「ど、どうしてそれを」黒原は目を見開いてようやく言葉を発した。
ビンゴ。
「自殺があったんですね。あの部屋」
黒原は禿あがった皺だらけの額から汗をたらりと流すと、ポケットからハンカチを取り出して慌しく拭いた。
「それはですね、その」
「あったんですね」
「はい、いや、その、いいえ、あの部屋はお客様にお渡しする前にきちんとリフォームも済ませてですね」
しどろもどろになって答える黒原を遮るように僕は手にしたお茶をどん、とテーブルに置いてもう一度言った。
「あったんですね? 自殺」
黒原はまた五秒ほど固まると、観念したように頭を垂れて、はい、と言った。それから突然テーブルに頭を擦らんばかりにしながら、慌てて口を開いた。
「いやはや、まことにもって申し訳ございません。ただ、わたくしどもとしてはですね、わざわざお客様にお知らせすることもないだろうと、その、なるべくご気分よくですね、引っ越していただければと、それにお家賃の方も」
僕は機関銃のようにしゃべり始めた黒原を手で制して言った。
「いや、いいんです。それは」僕がそう言うと、黒原は頭を上げてほっとしたような表情を浮かべた。そこで僕はちょっと閃いた。黒原に向かって身を乗り出すと、黒原は思わず顎を引いた。僕はその姿勢のまま声を落とすと、黒原の目を見ながら言った。
「実はお願いがあるんです」
「は?」
「川島さんの、その、ご家族の連絡先を教えていただきたいのです」
「そ、それはまたどうして」
僕は一瞬考えた。理由までは考えていなかった。五秒ほどアタマをフル回転させて、適当な口実を言った。
「忘れ物があったのです。川島さんの」
そう言いながら僕はひとまず、まずまずの言い訳を考え付いたことに内心胸を撫で下ろした。
「あ、そうですか…… おかしいな、ちゃんと全部リフォームしたんだけど」
黒原がぶつぶつ独り言のように呟き始めたので、これ以上怪しまれないうちにと、僕は自信たっぷりに見えるようにソファの背にもたれると、にっこりと笑った。
「お願いできますね?」
はい、少々お待ちを、と黒原はソファを立つと、自分の席に戻ってごそごそと書類を探し始めた。僕はふんぞり返ったまま、ようやく冷めたお茶をぐいっと飲むと、煙草に火を点けて、煙と一緒に思いきり安堵の息を吐き出した。
程なく、黒原は契約書類を開いて持ってきた。
「こちらでございます」
「じゃ、写させていただきます」
僕は鞄からシステム手帳を取り出すと、保証人の欄に書いてある、彼女の母親らしい名前と住所と電話番号を手早く写し取った。契約者の欄には、確かに「川島典子」と書いてあった。僕は写し終わると、契約書を黒原に戻しながら言った。
「じゃ、どうも、お手数かけました」
僕が手帳を鞄にしまってソファを立つと、黒原はようやくほっとした表情を浮かべて、どうもいろいろと御迷惑を、と言うようなことをぶつぶつと呟いた。
僕はさっさとここを出ようとガラス戸に手をかけると、後ろから「あの」と黒原の声が聞こえた。僕が戸に指をかけたまま振り向くと、黒原は近寄ってきて僕に耳打ちした。
「その、じ、自殺の件はどちらからお分かりに」
「それは」僕は早くガラス戸を引いて出て行きたい衝動に駆られながら、そのままの体勢で二秒ほど考えると、答えた。ファイナルアンサー。「秘密です」
僕は口を半分開いて唖然とした表情で佇む黒原を置いて、さっさと不動産屋を後にした。
商店街を早足で歩きながら、胸の動悸が収まるのを待った。そのまま駅ビルへと入ると、一階にある喫茶店に入った。
席に着いてコーラを頼むと、思い出したように汗が噴き出してきた。僕はそれをハンカチで拭いながら、ネクタイを思いきり緩めて、コップの水をひと息に飲み干した。
コーラが届き、それをストローで吸うと、ようやく人心地ついた。それからマイルドセブンライトに火を点けて思いきり吸い込むと、ゆっくりと煙を吐き出した。やればできるじゃん、スグル。今回は自分を誉めてやってもいい、と思った。
僕は鞄からシステム手帳を取り出すと、改めていま書き写したばかりのメモを見た。
川島佐知子。千葉県佐倉市うんぬん。
保証人、というからにはまず彼女の母親と考えて間違いないだろう。もしかすると、叔母とか姉妹、ということも考えられるが、常識的に考えれば母親である。とすると、何故保証人が父親じゃないんだろう? 離婚でもしたんだろうか?
僕はひとまずシステム手帳を閉じて、改めて今日得られたものを考えた。
川島典子は実在した。そしてやはり自殺していた。
僕は煙を宙に向かって吐き出しながら、そのことを繰り返し胸の中で呟いてみた。テンコの言っていたことは本当だったのだ。テンコはやはり死んでいた。いや、テンコはやはり生きていた。あれ、どっちなんだろう? 両方か。ややこしいな。とにかく、川島典子はかつて生きていて、そして自殺した。僕の今住んでいるあの部屋で。
これは何を意味するのか?
つまり、テンコは本当に幽霊だってことだ。
10.
僕は喫茶店から会社の香取さんに電話を入れて何も連絡事項がないことを確かめると、直帰します、と言った。まるで当たり前のように、お疲れさま、という香取さんの声が返ってきた。半日さぼってしまった罪悪感を振り切るように携帯の通話ボタンを切ると、レジで精算を済ませて喫茶店を後にした。
外はそろそろ日が傾きかけていた。帰る途中にあるラーメン屋でネギラーメンを食べた。帰り道を歩きながら、さて、どうやらテンコは本物の幽霊らしいことが分かったが、それでどうすればいいのか、と考えた。
本物の幽霊。
アタマの片隅から、シホードーマサコの悪霊という声が聞こえてきて、僕は頭を振ってそれを追い払った。
幽霊か。
事実がひとつ分かったというのに、何故か謎が深まっただけのような気がした。
部屋に辿り着くと、昼間の暑さで中はむっとするほど温度が上がっていた。僕はエアコンのスイッチを入れると、ジャケットとネクタイを脱ぎ捨てて、リビングのソファに寝転がった。横になったまま、リモコンでテレビのスイッチを入れ、ケーブルテレビのディスカバリーチャンネルに合わせると、象が群れをなして移動するさまをぼうっと眺めた。そのうち、昨夜の睡眠不足もあって、猛烈な睡魔が襲ってきた。いつのまにか、僕はそのまま眠りに落ちていた。
目が覚めると、テレビの画面では中米あたりののどかな風景の中を白人の旅行者がはしゃぎながらドライブしていた。時計を見ると、十一時十五分だった。僕は眠ぼけまなこを擦りながらソファから起きだし、シャワーを浴びた。バスタオルを頭に引っ掛けて、全裸のまま寝室のエアコンから流れ出る冷気に身を委ねた。机の上の目覚まし時計に目をやると、十一時半を過ぎていた。今日は幽霊もお休みか。僕は時計に向かって呟いた。
素っ裸のまま机の前に座り、頭をバスタオルで拭きながら、ノートパソコンのスイッチを入れた。そういえばここ二日あまり、スイッチを入れていなかった。ブライアン・イーノ作曲のスタート音が流れ、ウィンドウズが立ち上がった。ブラウザのアイコンをクリックすると、三日振りにインターネットに繋がった。先日宮本がインターネットならどうとか言っていたのを思い出す。サーチエンジンの検索画面を出すと、「幽霊」と打ち込んで検索ボタンをクリックした。あっという間に検索結果が画面に表示され、右端の総件数を見ると十六万件を越えていた。僕は溜息をひとつ洩らすと、冷蔵庫からオレンジジュースを持ってきて机に戻り、それを飲みながらとりあえず二十件表示されている検索結果を見た。個人のページや、幽霊を扱った映画に関するページが並んでいる。タイトルの下に二行ほど付いている文章のダイジェストを読むと、期待した学術的な解説や分類をしているページは見当たらない。一応二枚目の検索結果もクリックした。ざっと見ると、これもほぼ同じだ。十六万件を二十で割ると、八千。僕はそれ以上先に進むことを断念した。
少し肌寒くなってきたのでエアコンのスイッチを切り、今度はメールソフトを立ち上げた。メールがいくつか届いていた。アダルトサイトを紹介する文字通りのダイレクトメールが一件、今月の料金を知らせるプロバイダからのメールが一件、それと発信者欄もタイトルも空白のメールが一件。こういうのは大概がウイルスだったりする。僕は頭のメールから順に削除していき、最後のメールも削除しようとして思いとどまった。それはウイルスではなかった。ただ一行、書いてあるだけのメールだった。
アサコって誰?
僕は思わず辺りを見回した。自分が無意味な行動を取っていることに気づくと、煙草を一本取り出して火を点けた。ディスプレイに向かって煙を吹きかけながら、声に出して呟いた。幽霊、か。シホードーマサコの「悪霊」という声がアタマの隅から聞こえてきた。僕は改めてじわじわと恐怖を覚えた。
突然、窓をどんどんと叩く音がして、僕は椅子から文字通り飛び上がった。恐る恐る音のする方を見ると、半分開いたカーテンの間から、ベランダに立つテンコが見えた。僕は慌ててバスタオルを腰に巻くと、もう一度改めてベランダを見た。やっぱりそこにはテンコが立っていた。不思議なことに、先程覚えた腰を抜かすほどの恐怖は、テンコの顔を見た途端に消え去り、僕は鍵を開けてサッシを開けた。テンコはTシャツにジーンズという格好で、腕を組んで頬を膨らませながらこちらを睨んでいた。
「お、脅かすなよ」
僕が本心からそう言うと、テンコはスニーカーを脱いで両手に持ちながら部屋に入ってきた。
「いったい、いつになったら服を着るのよ」テンコはそうぶつぶつ言いながらスニーカーを玄関に置くと、こちらを向いて両腕を組み直した。
僕はサッシを閉めようと手をかけたが、思いの他涼しい風が入ってくることに気づき、そのままにした。そしてテンコの方を向き直り、こちらも両腕を組んで言った。
「そっちこそいったいいつからいたんだよ」
テンコは相変わらず両腕を組んだまま、頬を膨らませて答えない。僕は組んでいた両腕をほどいて、バスタオルを巻いた腰に手を据えて言った。
「あのな、ここ二階だぞ。それでなくても、夜中にドアじゃなくて窓をノックされたら怖いだろ、マジで」
テンコは一度口を尖らせると、つかつかとこちらに歩み寄って言った。
「幽霊らしいことやれって言ったのはそっちじゃない?」
「そうだっけ?」
僕は目の前に顔を突き出しているテンコを見ながら、思い出そうと束の間努力した。ふと目を下にやると、Tシャツの胸の膨らみが目に入り、間違いなく形がいいであろう中身を想像してしまった。思わず勃起しそうになった。突然テンコは顔を赤らめると、ぷいと横を向いてリビングに向かいながら、「どうでもいいけどなんか着てよ」と言った。
僕がTシャツと短パンを着てリビングに入ると、テンコはソファの上にあぐらをかいて両腕を組んでいた。
僕が例によって床に腰を下ろすと、テンコは言った。
「それで、アサコっていったい誰なわけ?」
僕は口をへの字にしてから答えた。
「去年まで付き合ってた子だよ」
「なんで別れたの?」
「振られた」
「なんで?」
「こっちが訊きたいよ」
僕はそう答えて肩をすくめた。
「それで、今でも好きなわけ?」
「いや」
「嘘吐き」
「嘘じゃない」僕は煙草を探したが、寝室に置いてきたままだということに気づき、諦めた。「だいたい、何をそんなに怒ってるの?」
「怒ってなんかいないもん」そう言ってテンコはまた頬を膨らませた。見ると目に涙が滲んでいた。
「あっそう」
僕は口ではそう言ってはみたが、何故か突然テンコを抱き締めたい衝動に駆られた。それと、何故かまた勃起しかけていた。僕はそれをごまかすため、膝を立てて両手をその前で組んだ。テンコはまだ涙を目に滲ませながら、下を向いて足の指をいじっていた。
時計が目に入った。十二時をとうに過ぎていた。僕は慌ててテンコに言った。
「お前、十二時過ぎてるけど、帰らなくていいのか?」
「わたし、シンデレラじゃないもん」テンコは顔を上げてこちらを睨みつけるようにして言った。それからおもむろに立ち上がると、「でも、帰る」と言って玄関の方に向かった。
「おい、待てよ」
僕はそう言いながら後を追いかけたが、引きとめてどうしよう、ということまでは考えが及ばなかった。何故自分が待てと言っているのかよく分からなかった。
玄関でスニーカーを履き終わったテンコに追いつくと、僕はその腕を取った。テンコは目に涙を浮かべて僕を見つめながら言った。
「どうしてスグルはそう煮え切らないの? もどかしいの? 優柔不断なの?」
いきなり自分の欠点をほとんど全て並べられて、僕は答えに詰まった。テンコは真剣な表情でさらに僕を問い詰めた。
「わたしのこと好きなの? 嫌いなの?」
テンコの目から涙がこぼれ落ちた。
「好きだ」
僕はそう言うとテンコをその場で抱き締めた。
どちらからともなく僕らは唇を重ねて、舌を絡め合った。テンコは僕の背中に両腕を回して、きつく抱き締めてきた。テンコの弾力のある乳房が僕の胸に押しつけられ、僕は勃起した。テンコのからだはしなやかで暖かく、テンコの舌は柔かに湿っていて僕の舌に絡みついた。
テンコが唇を離すと、細い唾液が唇から糸を引いた。僕は指でそれを拭った。テンコは半分泣き顔のまま、少し頬を赤らめて弱々しい笑顔を浮かべると、「おやすみ」と言って僕を突き放し、あっという間にドアを開けて出ていった。ドアがばたんと閉まった。今日は後を追わなかった。いまさっき、テンコが浮かべた笑顔の残像がいつまでも僕のアタマに残り、それはとても切なかった。
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