駄作その1

訓練された社畜

第1話

とある青年の話。


彼は見た目こそ平凡だが、少しでも困ってる人を見かけたらすぐに手を貸そうとする優しい青年だった。


しかし、彼には一つ、他の人にはない呪いにも似た力があった。それは『自身の感情と反転した感情を相手が持つ』というもの。


彼がその力を自覚したのは幼少期、当時気になっていた女子に手酷く振られたことがきっかけだった。

思い返せば今までも、男女問わず好ましく思う相手には避けられ、苦手に思う相手は近寄ってくることがほとんどだった。


当然彼は、そんな力を疎ましく思った。


それは少年期、青年期と成長しても変わらなかった。

中学卒業を迎える頃に、彼は考えた。

好ましく思う相手から嫌われ続けることは辛い。なんとかならないか?と。

そして思い至る。なんの感情も持たなければ、嫌われることはないのではないか?と。


そして彼は、高校入学と共に周りに感情を持つことをやめた。

彼の目論見通り、無関心を貫く彼に周りもまた無関心となった。


そして高校を卒業し、大学、社会人と成長していくにつれ、彼が意識的にやっていた周囲への無関心は、彼の性格に染み付いた。


30代、40代、50代と歳を重ねていく。

周囲への無関心を貫いていたため、未だに独身だった。

60代、70代と年老いていき、そろそろ天寿を全うする間際、彼は気付いた。


なんと無駄なことをしていたのだろう。

私の周りには誰もいない。何も残らない。

このままひっそりと死んでいくのか。


彼は嘆いた。己の過ちを。

嘆きながら、その生涯を終えた。



彼はどうすれば良かったのだろうか?


好ましく思わない相手に囲まれて生きていく方が良かったのか。

彼の選択が正しかったのか。


今となっては答えはないが、彼は勘違いをしていたのだろう。

彼が気付いた力、その呪いに似た力は、本当にあったのだろうか?




彼がお節介を焼くのは、目に留まった時。

どんな相手が目に留まるだろうか?



これはどこにでもいる、少しお節介な男性の話。

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駄作その1 訓練された社畜 @sha_de

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