壱話 赤い毛先の耳飾り

「アタシは酒呑童子の酒天稲波だ。んで、このゴミむし以下のコイツは人の気。説明はこれで十分だろ。」


「え…そ、そいつに勝てるんですか…?」


「アタシは祓い屋だからな。酒呑の武術、見せてやんよ!」



稲波が構えると持っていた薙刀が巨大化した。


薙刀は赤い霧のようなものを纏っている。



「歯ァ食いしばれよ、ゴミむし以下のゴミクソむしが!」



「ぐぇふぁいぇえあ……」



稲波が薙刀で化け物を斬ると、化け物は黒い霧となって空に昇っていった。



「す、すごい……」



「まだまだ弱いな。こんなんであんなに率いてたのか。さて、そこのゴミむし!」


「は、はい!」


「これはお前のか?」



稲波が取り出したのは赤い毛先の耳飾りである。


隼人の目の前にぶら下げられたそれを見て、隼人は目を見開く。



「これ…父上のです。……父上がいつもつけてた…」


「そうか。…ということは、残念だったな。」


「……っ、すみません」


「いや、いい。男だから泣いちゃ行けないなんて誰が決めた?泣きたいときゃ泣け。我慢してもなんの得もないぞ。」



「……っ!ぁぁぁあああ!!!」



隼人は泣いた。叫んだ。唐突に訪れた親との別れに。

それを黙って見ていた稲波がふと言葉を発する。



「お前、行くとこは。」


「…ない、です。」


「これからどうする。」


「…特には……」



「そ。じゃあお前、祓い屋になれ。」


「え、」



隼人が稲波の方を向くと、そこには真面目な顔をした彼女がいた。



「お前、その様子じゃあの化け物見えるんだろ。普通の妖には見えないもんなんだよ。」


「そうなんですか…?」


「んで、そういう見えるヤツは大体祓い屋に向いてる。」


「……」


「決めるのはお前だよ。よく考えな、祓い屋は半端な覚悟じゃできない。」


どのくらい考えただろう。

とても長いように感じるが、もしかしたらとても短いかもしれない。


隼人は考える間ずっと待っていた稲波に向かうため、立ち上がる。



「やります。俺は父上と母上に誇れるようになりたい。」


「お前ならそう言うと思ったよ。…じゃあ、1番近い祓い屋に行くか。多分アイツなら引き取ってくれるよ。」



行くぞ、と歩き始めた稲波の後を追いかける。


期待と不安を胸に。

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