人の気、物の怪、百鬼夜行

朱秋るい

序章 祓い屋流

零話 人の気、物の怪

 妖怪、それはヒトに古くから恐れられる非現実的物体である。それらはそれぞれに能力を持ち、人間に干渉していたという。



「はぁ……っ……はぁ…っ…」



 しかし、妖怪である彼らにも恐れるものがあった。



「誰か…っ……誰かいないの…っ」



 それは____人の気ひとのけ



「(なんだあれ……なんだあれなんだあれなんだあれ…!!)」



 妖の少年、境鳥隼斗は突如現れたそれから逃れるため、妖怪の住む異界を駆けていた。



 隼斗は木の葉天狗の子孫である境鳥家の一人息子であった。

 天狗の中の地位が低くても、まだ未熟でも、天狗の血を引くものとしてもちろん立ち向かった。

 しかしこの化け物、妖術が全く効かないのだ。



「(もうダメだ…!足が動かない…父上と母上も置いてきてしまった……俺はここで死ぬのか…!?)」



「ぐえあぃぇあぐあああ」


「ヒッ…」



 効かない、効かないのは知っているけれど。

 自分がやらなきゃみんな死ぬ。



「こ、木の葉の術、【木葉ノ太刀このはのたち】…!」



「ぐぇへあい??」



「駄目だ、効かない…!」



 化け物は鋭い刃と化した木の葉をいとも容易く跳ね除けてみせた。

 もう駄目だ、今度こそお終いだ。

 父上と母上は無事なのだろうか。


 どうか、どうか両親だけはお助け下さい。



「ぐやぇあへぃえ!!」



 化け物が鋭く尖った腕を振り上げた。

 隼人は反射的にぎゅっと目を閉じる。



「……あれ、?」



 だが、いつまで待っても痛みがこない。

 不思議に思って目をゆっくり開けると、




「待たせたな。アタシが来たからにはもう安心していいぞ、ゴミむし!」



 深紅に染まった髪から除く橙の瞳が隼人を捉えニッと笑う。



 これが、隼人と祓い屋の出会いであった。

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