綴
再び大きな水柱がたち、わたしがどんなに喚いて、「船を止めて」と叫んでも、船が止まることは無かった。
追手の船は、
わたしは、かけがえのないものをまた一つ、失った。
それは、刀で刺し抜かれたような痛みと、首を絞められているような苦しさをもたらした。
人は本当に辛くて、悲しいと泣くことすら出来ないのかもしれない。
わたしはそれを思い知らされた。
里を焼かれた時にあれだけ涙を流せたのは、
先へ先へと進む船の上で、岸にたどり着く間際で、わたしは気を失った。
だから、船を降りた後、どうやって蒼龍が船乗りの人たちを納得させたのか、どうやって港を離れ、どうやって追手を完全に振りきったのか、わたしは何も知らなかった。
でも、もう何もかも、どうでも良かった。
母が誰であろうが、父が誰であろうが、里があの後どうなったのか、生きようが死のうが、全て全て、どうでも良くなっていた。
わたしが再び、望んでもいないのに目を醒ましたその時。
わたしの手にあったのは、橙馬が肌身離さず身に着けていた橙色の布の切れ端だけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます