第十六幕 宵闇の決意
オレ達は最後の夜を迎えていた。
明日はいよいよ交易船へと乗り込み
その後はまだ目的地まで少しあるが、今までの来た距離に比べれば短いし、今回の河みたいに色々と手を回さなくてはいけないようなところも無いらしい。
既に炎家の領地を経由し、花家の領地に入った。ここから、船着場までは歩きでも数刻で着くということだった。
船着場のある街の手前の森、水の澄んだ湖畔に程近い場所に火を焚き、明日に備えて休息をとりながら、オレはほぅっと息を吐いた。
木々の隙間から見える夜空には、明るい満月が浮かんでいた。
直ぐ隣では、すっかり野営に馴れてしまったらしい
月華がすっかり眠っていることを確認すると、オレは意を決して口を開いた。
「なぁ?ちょっといいか……?」
オレは両手を頭の後ろで組み、それを枕代わりに仰向けに横になっていた。これから話すことはそれなりにオレからすれば覚悟が必要な話だった。だから相手の反応が直に見えないそのままの態勢で声をかけた。
森の夜は大分冷える。でも、月華が寝てから
「どうした?」
「ちょっと、場所変えたいんだけど」
雷蒼から反応が返って来ると、オレは跳ね上がる様に起き上がり、湖がある方を親指で示す。
「だが……」
雷蒼は直ぐに首を縦には振らなかった。
眠っている月華のことが心配なのだろう。火を絶やさない様にしているので獣が寄って来ることはないだろうが、逆に野盗の目印になってしまうかもしれないとか、そんなことを考えているんだろう。
オレだって、月華が心配なのは一緒だ。
でも、これから話すことは、月華には絶対に聞かれたくないことだった。
「そんなに時間はかかんねぇから」
何かあれば直ぐに気付く距離から離れないというのを条件に、俺達はそっとその場を離れた。
「それで話とは?」
満月を写し出す湖の畔まで移動したところで、雷蒼が改めて訊いてくる。
「…………」
だが、いざとなると何をどう言っていいものか迷った。
「悩んでいることがあるなら……」
すると雷蒼は何をどう勘違いしたのか、慈しむような優しい眼差しでオレへと歩み寄ろうとする。
いやいやいや、話したいことがあることには違いないし、どう話したものか悩んでいるには違いないが、オレはそんなものを欲していない。
オレのことをどこまでも弟みたいに扱おうとする雷蒼に、オレはムッとなった。というか、どう云おうかとか、話すことが苦手な癖してぐだぐだ言葉を選んでいた自分に腹がたった。
まどろっこしいことはやはり性に合わない。オレらしくない。
「なぁ、雷蒼」
オレはもう一度口火を切って、今度は余計な事を言わずに、腰に吊るした柳葉刀を抜き払った。
月の光に照らされ柳葉刀は青白く光を放つ。
「オレと本気で手合わせしてくれ」
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