芽吹の章


 滲んでいく。

 あの日の夕焼けのように……

 赤く……紅く……



 あともう少しだけ、と心が叫ぶ。

 約束だから、と手を伸ばす。

 想いが弾けて、言葉にならない。声が出ない。

 なんとか唇が紡ぎだした言葉は、ただ一言。


「笑ってろ」


 離れていく指先は、もう随分前から触れていなかったけれど、まだ温もりが残っている気がした。



 頼むから、「嘘吐き」なんて言わないでくれよ?

 まぁ、もう覚えてなんかいないかもしれないけどさ。

 その場しのぎで云ったわけじゃないから。



 滲んでいく。

 澄んだ翡翠色が夕焼けに染められて、混ざりあって、茶色だか、朱だか判んない色に変わっていく。



 もうちょっとだけ……沈む速度を下げてくんねぇかな?

 そんな風に思ったところで、太陽が待ってくれるわけもない。

 まぁ、いいか。

 あんだけ綺麗な翠。散々焼き付けたから。



 滲んでいく。

 ほんの刹那キラリと輝いて。

 紅く染まりつつあった世界は、急速に夜を迎えた。

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