11 「女児服に興味あったらちょっと怖いけど」
「いらっしゃいませ~! お探しの服はございますか?^^」
世の中に様々な人がいれど、台詞に「^^」という顔文字がつく職種は少数だ。具体的に言うと、ショップの店員さん。
そう、葵太(あおた)と姫奈(ひな)は、20代中盤くらいの女性店員さんに声をかけられていた。
「あ、えっととくに探してるものはないんですけど……」
「そうなんですね。お兄様? はどうですか?^^」
と、姫奈と話していたと思ったら、すぐに葵太に話を振られた。
「お、お兄様っ!?」
「はい、お兄様……あ、もしかして違いましたか?^^」
「や、ち、違わないですけど……その心の準備がまだできてなくて」
「心の準備?」
「ちょっと葵太! 変なこと言わないでっ!」
葵太のなかでは繋がっている発言だったが、当然、店員さんには理解できなかったようで、あからさまに困惑した笑顔。そして、
「で、ではごゆっくりご覧になってくださいね~……(^_^;)」
と、最後まで声色に顔文字を含めつつ、去っていった。
「うーん、不審者ってしまったな……」
「完全に不審者ってたよ今のは。まあ、わたしもキョドったし偉そうに言えないけど」
「うむ。徐々に慣れていく必要ありそうだな」
「そうだね」
お互いにうなずきつつ、葵太と姫奈は胸に誓いあった。
◯◯◯
その後も、ふたりは様々な店舗を見ていった。
姫奈は色んな服を実際に試着。カジュアル、かわいい系、クール系、お姉さんっぽい雰囲気のやつ……など、様々なテイストを着こなしていく。最初こそ、試着を待っている間、店舗内のイスに座って待っていることに居心地の悪さを感じたものの、次第に慣れていった。もはやこうなると、何時間でも待ってやるぞという気持ちすら出てくる。
「女児服に興味なかったから知らなかったけど、色んな系統があるんだな」
現在進行形で、試着室で着替えている姫奈に、葵太は話しかける。姫奈が選び、すでに買った服が入った紙袋を小脇に抱えている。
「逆に女児服に興味あったらちょっと怖いけどね。どういう意味で、っていう」
「たしかに」
「女の子ってわりと小さいときからおしゃれとか気になるものだからね。一年中よれたジャージ着てたり、ボロボロのスニーカー履いてたり、体操服とかなかなか家に持って帰らなくてロッカーに保管してた結果、黄ばんでしまうような男子たちにはわかんないと思うけど」
「さすがにそこまでの奴はなかなかいないよ」
そんな雑談をしていると、姫奈が試着室から出てきた。白いスウェットにピンク色のスタジャン、ベージュ色の短いスカートを合わせたコーディネートだ。頭にはキャップもかぶっており、快活な雰囲気でありつつ、年相応なかわいさを残している感じ。
「どう? 似合ってるかな?」
「うん、めっちゃいい」
「ふふっ、やった」
喜びつつ、鏡に向かってポーズを決める。読者モデルでもやっていそうな、それくらいのかわいさで、正直今日見たどんな女児よりもかわいいと思う。うちの妹は最高だ。妹じゃない。
「普段はネット通販なんだけど、やっぱ試着して買ってみたくなるものじゃん?」
「さっきの聞こえてたんだな」
「うん」
「試着したくなる気持ち、全然わかんないな俺は……」
「葵太も服に興味持ったらわかるようになるよ」
そして、そのうち1着を気に入ったようで、姫奈は店員さんに渡していた。
店を出て、さらに他の店へと向かう。急かすように、姫奈が先行しつつ、ふたりで歩いていく。
「てかそもそも買うんだな、ロリモード用の服。昔着てたとかあっただろ?」
「あったよ。でも私、もう6年もこんな感じだから。毎月着てると、さすがに傷んできちゃうんだよ」
「ふーん、そうなんだ」
「あとジュニア向けの服ってかわいいの! この体になってるときって好みも昔に戻るみたいでさ。昔、照れて着られなかったやつとかが着れるんだよね~! ……ってごめん。私、ひとりでテンション上がってた」
早口で言ったのち、姫奈は急にペースダウンした。途端に申し訳なくなってきたのか、葵太をチラっと見上げる。
「ごめん、葵太とこうやってまわるのが楽しくて。ネット通販で買って届いた服を、ひとりで家で試着会してたくらいだからさ。誰かに見せるとかなくて、だから色んな服着る喜びとかもなくて、今日とは全然違って……でも、葵太的には、こんな過ごし方楽しくないよね?」
たしかに、かれこれもう回り始めて1時間は経っている。それは事実だし、慣れない場所に若干疲れつつあるのも事実だった。
だけど葵太としては、姫奈の気持ちを満たしてやりたいと思った。わがままを聞いてやりたいと思った。だからこそ、言ってやる。
「そんなことないよ……ただ、無理して今日たくさん買い込む必要はないよなって。だって俺たち、もういつでも来られるんだからさ」
「葵太……」
葵太の言葉に対し、姫奈は泣きそうな表情を浮かべたのち、
「うん! そうだよねっ!」
子供らしい元気な声を、無邪気に響かせたのだった。
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