12 「安心しろ。俺はロリに興奮する性質じゃない」
その後、葵太と姫奈はショッピングモールの一画にある、フードコートへと移動した。
周囲には家族連れ、若いカップル、雑談に花を咲かせている高齢者の集団…など様々な人がおり、まさに老若男女。制服の葵太とロリモードの姫奈(と言っても、傍目には普通のロリにしか見えないのだが)が一緒にいても浮くことはなかった。
「私たち、兄妹に見えてるかなあ?」
「だろうな」
「やっぱりか」
「姫奈が買いすぎた服、俺が持ってるからそれもなんか兄貴っぽいし」
「ふふ、たしかに。荷物持ち感というか」
葵太の言葉に、姫奈がクスッと笑う。体が少し小さいせいで、テーブルに身を乗り出すといより、乗っける感じになっている。あどけない姿勢だ。
姫奈が食べているのは、ミスタードーナツのエンゼルフレンチ。ホイップクリームが中に入って、チョコが上のほうについている、テクノカット的なビジュアルのアレだ。かわいい女の子とドーナツの組み合わせはなかなかに破壊力が高く、しかも時々口元にクリームがついていた。
「でも、この私と一緒にいるの大変でしょ?」
食べ終えると、思い出したかのように、大人っぽい声色で姫奈が述べた。いや、声もロリのときに戻ってるから子供の声なのだけれど、語り口がどこか高校生なのだ。
そんなギャップを改めて不思議に思いつつ、葵太はうなずく。
「そうかもな。誘拐犯に間違われないように気をつけたほうが良さそうだし、あとはうっかりお姫様抱っこしないように気をつけないとか」
「ちょっと待って、誘拐犯のほうツッコミ入れたいのに『うっかりお姫様抱っこ』の破壊力スゴいよ」
「破壊力って」
「葵太ってそんな感じだったっけ?」
「いや、違うな」
「だよね。イケメンって感じじゃないもんね」
「おいっ! おいじゃないけどおいっ!」
「ごめん、からかってみただけ」
「でもなんかさ、その姿だといつもの俺じゃなくなくなるんだよな」
真面目な面持ちで葵太が述べると、
「ひっ……」
姫奈が自分の胸元に手を回して、防御するような体勢を取った。
「安心しろ。俺はロリに興奮する性質じゃない」
「えー、そうなんだ」
「なんでちょっと残念そうなんだよ…でもさ。それを言うなら姫奈もそんな感じだったか?」
「……そう、なんだよね」
葵太の指摘に、少しつまりつつ、姫奈は苦笑を浮かべた。
ロリモードの姫奈に、葵太がいつもと違う雰囲気を感じていたのは、これまでにも何度か記した通りだ。それなりに極端なマンガの趣味を持っているものの、姫奈は普段は清楚で、わりとおしとやか寄りの性格なのだ。
だけども、ロリモードのときは元気で、感情表現がストレートで、リアクションも大袈裟…一言で言うと『子供っぽい』のだ。
そして、それは昔の姫奈を感じさせた……あの無茶苦茶な母親に振り回され、ある程度人生に疲れてしまう前の姫奈に。
「性格もちょっと子供のときに戻るというかさ。体が小さくなると言っても記憶が消えるとかじゃないから、私的には普段と変わらないはずなんだけど、やっぱり引き寄せられるんだよね」
「そうか」
「中身は変わってなくても、入れ物に影響されるというか。実際、ロリ化した次の日とかちょっと自分が自分じゃない感じあるの」
「そうなんだ。全然気づかなかったけど」
「仕方ない。私にもわかんなくなりそうなくらいの微妙な変化だから」
そこまで言うと、姫奈は急に天を仰いで、
「……10歳のときの私と16歳の私、その境目がだんだんなくなっていく気がするよ」
「急に厨二っぽくなったな」
食べ終わったミスドのトレイが目の前にあるので、全然様になっていなかった。
「まあ、何が言いたいかと言うと、少し子供っぽくなると思ってもらえると嬉しいってことです」
「そして俺のツッコミはスルーと」
「生意気になったりすることもあるかもだけど、それは葵太と私の距離感というか、幼馴染の信頼値というか……」
「大丈夫、わかってるよ」
姫奈のこと、ずっと見てきたから。一瞬そう言いかけたけど、葵太はとどまった。言ったあと、恥ずかしさでお互い頬を染めるのが目に見えていたから。
でも、姫奈には十分伝わったようで、ニコリと微笑んだ。肘をつき、両頬を両手でぷにっとさせたあどけない姿勢のまま。
そして、そんなところで会話は終了。何事もなく、帰路につこうとお互いが心のなかで思ったそのとき、
「……あれ、もしかして梅田?」
どこかで聞いたことのあるような女子の声が、背後から聞こえた。
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