第4篇③ 孤独
女はベッドで横になって時間を過ごした。大きな胸が邪魔でうつ伏せになるのも仰向けになるのも姿勢が窮屈だから、横向きで。左右の寝返りでも邪魔に感じる自分の胸はただ男を喜ばせるだけだけなので、しょっちゅう出し入れできるようにさせてほしいと考えていた。
もうずっと前からベッドで寝ころんでいるのが女の基本姿勢だった。大体1日の大半がその時間だ。寝ている時間も含めると相当の割合を占める。寝転んだ姿勢でパソコンとスマホを使い、ネットの世界に入る。
世界がゾンビだらけになるよりも前からの話だ。パソコンで好きな動画を流しながらスマホでSNSやゲームに興じる。ずっと家の中でそうしていたからきっと、もの凄い勢いで広まったので噛まれなくてもなるらしいゾンビにならなくても済んだのだ。
世界が変わっても寝転び続ける女にも変化はあった。心境の変化だ。そして悪い変化である。ゾンビが怖いだとか、いつか自分もゾンビになってしまうだとか人間として当然の恐怖もある。いつかがいつ来るのか分からないという不安も。
だけどそれより……未来の不安より、過去の後悔に苛まれていた。
寝転んでいると、ふと考えてしまう。考えないようにしようとしても自然に。もう明かりを灯してハッピーな物語をパソコンの画面に映す気も起きないほど。暗い部屋で指先すら動かす気にならなくなる。
孤独だった。たぶん世界がこうなってしまう前から。自分のことを本当に愛してくれている人などこの世にいない。女はそう思っていた。
昔は直視しないようにしていたことだけど、混乱した世界で実感させられた。私は誰にも愛せれていなかったんだと。
働きもせずに男と遊び続けて、妊娠と中絶を二度経験し、それでもなお……金持ちの男と同棲しようとした女は親には勘当されていた。
昔から反抗しかしてこなかった当然だと女も分かっていた。直接縁を切れと伝えられた訳ではないけれど、二度と帰ってくるなと父に言われてからもう5年以上両親と連絡を取っていない。
好きにコントロールできるようになった男たちも、次から次にとっかえひっかえしていたし、男側も体が目当てなだけなので結婚なんて考えてはいなかっただろう。
証拠に女のもとへ自主的に救助へ駆けつける者は一人もいなかった。
人間が減って異性の選択肢が少なくなったこの世界でも女の人生を知れば、心からら愛してくれる人なんていない。人が減ったからこそ、愛すなら容姿よりも性格が重視されそうだ。
あの時こうしていれば、間違った選択肢を選ばずに真っ当に生きていれば、今こうして1人でうなだれることも無かったのに。
そうやって孤独を感じた女は部屋の中、次にスマホで自分の貯金残高を見た。昔から癖のように頻繁に確認していたことだ。自分のもとに男たちから送られた多額の金を見ていると、自分は愛されている、自分の人生は勝ち組だと思える。
いや、思えていた……。けれど、今ではそんな数字も何の意味も持たない……。
そんな時に女の部屋のチャイムは鳴った。たぶんSNSで知り合った食料を届けに来た男だ。
テレビドアホンのモニターで玄関を見ると口から血を流す男がいた。
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