第4篇② 大漁、大漁

 都内で孤立してしまって困っています。家に食料が無くなってしまったんですが、自宅マンションの周りはゾンビだらけで私1人ではとても生きて食料を運んでこれる気がしません。


 どうか誰か私を助けてください。私の部屋まで食料を運んできてくれた方には何でもお礼をします。考えてくれる方はDMください。

#救援募集 #孤立女子 #食料求む


 女はそんな文をSNSに発信した。ゾンビのせいで陥った食糧難を何とかする為に。助けを求めた。


 生き残った人類は皆きっと自分の身を守るので精一杯な人間ばかり。そんな中でこんなことをしてもわざわざ自分の身を危険に晒す人間なんていない。


 しかし、自分の容姿を文と一緒に貼り付けていれば話は別だ。


 女はついさっき撮った自撮りも添付した。あからさまに男を釣ろうとしていてる自撮りではなく、真面目な顔で頼むように手を合わせた画像だった。


 加工もせずにメイクも控えめ、けれどそこに胸元をちらりと覗かせ合わせた手で口元を隠すといったテクニックも織り交ぜていた。


 スマホにデフォルトで付いていたカメラアプリでも、撮れた画像を見て女は相変わらずの自分の可愛さに驚いた。自分で見ても惚れ惚れする。その辺の芸能人よりも絶対可愛い。


 投稿してからわずか2分、思った通りすぐにメッセージは届いた。自分の可愛さなら惹かれて当然。加えて女はいくつかあるSNSのアカウントで1番フォロワーの多いアカウントで投稿した。正に当たりまえの結果だ。


 それからさらに絶え間なく女のもとにメッセージは届いた。すぐに10を超えて20を超える。全て男からのヒーロー気取りのメッセージだった。


 大半の人類は死んでしまったかと思われる世界でもSNSの数字だけ見ていればまだまだたくさん生き残っている気がする。1日にゾンビに関するものだとか悲惨な状況を発進する投稿は数万という単位で存在しているのだ。


 昔、10万件の投稿でトレンドだとか大人気だとか言ってたのが、何十億と人類がいる中で如何に小さくて意味が無いものだったかも世界が崩壊してから知った。


 大体は凡人男が勇気を出してワンチャンアダムとイブを狙ってきてるのであろうというメッセージの中、女だけでなくこのゾンビだらけの世界で色んな人を助けるボランティアをしている男だとか、もうゾンビを何匹も自分の手で殺しているという武闘派のイカれた男なんかからもメッセージがあった。


 ゾンビの死体の前で親指を立てる自撮り付きだ。プロレスラーみたいなごつくていかつい男だった。


 女はその中から一番条件が良い男を選んだ。とにかくたくさん食料を運んできてくれるかどうか、それが美味しいものであるかどうか。そこが選別のポイントだった。


 男の容姿だとか年齢はどうでもいい。何しろ女は食料を運んできてくれた男を家に入れてどうにかなろうなんて気はさらさら無かったからだ。


 できれば、食料だけ受け取った後は閉め出してその辺でゾンビに殺されてほしい。

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