第3篇終 奇形児の館
見た目以外の才能に溢れているらしい虫のように手足が多いムシと、手足も無ければ何の才能もないらしいただ落ちているだけのイモ。この2匹を同じケージに入れてみる。男が2匹を買った当初から考えていたことだ。
運びやすいのでイモをムシのケージに入れる。イモはそのケージでもただ床に落ちると、表情も変えなかった。ムシという自分とはかけ離れた存在を見ても人形のようにそのまま。
ケージのガラスで自分の姿がどんなものなのかは知っているはずなのに、圧倒的に力が違う生物を見ても恐れるということもなく、興味を示さなかった。
本当に脳で何を考えているのか分からない。きっと何も考えていないのだろう。
対して、ムシはイモを見ると、さっそく興味を示し、ゆっくり近づいて触れた。
ムシは4本ある内の1つの手でイモの事を持ち上げる。顔の前まで持っていたので一瞬餌として食べてしまうじゃないかと思ったが、ムシはそれをおもちゃのように扱った。
上げたり下げたり、振ってみたり逆さにしてみたり。正に人形を与えられた子供だった。
イモはそんなことをされながらもまだ表情を変えないままで、その様子を見ていた男は腹を抱えて笑った。
同じ奇形児にすら人間と認識されないイモの姿は男のツボにはまった。これより面白いことはないだろう。
男はこのままイモとムシを一緒のケージの中で飼うことにした。もっとその先が見たかったから。この化け物2匹は今後どんな姿を見せてくれるのか
食べて排泄だけはする汚いおもちゃは翌日には叩き潰されてしまうかもしれない。けれどそれはそれで良いと思えた。
男の管理不行き届きで死ぬのは嫌だけど生き物通しが殺し合うのは見応えがある。共食いみたいな現象も男は好きだった。醜くて。
それに男はさらに飼育する奇形児たちを増やすことに決めた。家のスペースにはまだ余裕があるし、飼育を手伝う奇形児もいる。
それから数カ月の時が経ったある日のことだった。男が外で酒を飲んで帰ってきた日、家に帰ると異変があった。
点けっぱなしで外に出たはずの電気が家中で消えている。スイッチを押しても電気が点かない。そして、奇形児を飼育していたケージの中が空になっていた。
それを見てとりあえずスマホを取り出す男、しかしそのスマホは一瞬にして取り上げられた。
ムシによって。
頭の良い男は、一瞬で酔いが冷めて状況を察した。ああ、奇形児達がいつの間にか脱出できるほどに成長して、その作戦を実行していたんだと。
でも一体どうやって、主犯は世話を任せている軽い奇形児か。そんなことが奴らにできるか。そんなことを考えながら、暗い部屋の中、男はムシの顔めがけて蹴りを放った。
こうなったら殺すしかない。代えはいくらでもきく。迷いはなかった。
しかし筋骨隆々に育ったムシは男の蹴りを簡単に止めた。そのまま男の足を掴んで持ち上げる。
そして次の瞬間、聞いたことのない声が聞こえてきた。
「やっとあなたを殺せる日がきました。僕は今日まで牙を隠していましたが、気づかないでくれてよかったです」
声の主はイモだった。ムシの別の手に抱えて持たれていた。月明かりを受けながら男を見下ろして笑っていた。その顔には確かに表情があった。
「その辺で死ぬはずだった僕に生きる環境を与えて、しかもこの子と同じケージに入れてくれるなんて感謝してもしきれません。しかし、死んでもらいます……死ぬ人にこれ以上話していても無駄ですよね」
イモはどの奇形児よりも流暢に日本語を話していた。障害を持った子供が、その分何かしらの突出した才能を持っているとかそういう類か。しかも、男を騙すためにずっとバカの振りができるほど、騙し通せるほどの知能の差。
アメとムチで調教していたムシのことも手駒にしている。
驚きだ。けど、理解はできるし興味深い。でも、詰みだった。
逃げようとしたけれど、奇形児たちがうろつく館から男が外へ出ることは叶わなかった。自分がしてきたこと以上の苦痛を返された。
犯罪が容認される住宅街で生まれた頭脳はそれから、男の全てを乗っ取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます