第3篇⑤ イモとムシ
今まで飼っている生き物たちに名前を与えることが無かった男が初めて奇形児2人に名前を付けた。それほどに気に入っていた。しかも「あ」と「い」だとか「1」と「2」みたいな名前ではなく、「イモ」と「ムシ」という考えてつけたものだ。
イモとムシは男が正に求めていた理想の個体だったのだ。
人間でありながら人間とは言えないほどの容姿。これはもう宇宙人だ。夜道で会ったら必ずそう思うだろう。若いころに出くわしていたらトラウマになる。2人ともガラス張りのケージに入れて別々の部屋で飼育した。
手足が無いイモのほうはしっかり世話してやらないと生きられない。自分の意志で動くことすらできないからだ。それでもイモは生きた。餌を与えると口を動かして飲み込んだ。目や表情は動かせるはずなのに、ずっと無表情なのがなんとも気持ち悪くていい。
前に飼っていた蛙も同じだったが、それと比べるとかなり大きいので世話はめんどくさかった。
だから最初に始めたのは奇形のお世話をする軽い奇形の育成だった。
イモとムシ以外の2人にイモとムシの世話を教えた。2人もまだ幼い子供であったがすぐに世話のやり方を覚えて男に従うようになった。
その教育法はすごく簡単だ。シンプルなアメと鞭を徹底する。従えば男と同じレベルの食事や生活環境を与えて、従わなければもう二度と味わいたくないほどの苦痛を与える。それだけで子供を100%従わせるなんて容易いことだった。
自分の子供じゃないからできる。もっと言うと同じ種族だとも思ってないから。殴ったり焼いたり、男は従わなかったときにその日の思いつきで体罰を行った。もう片方の手足をいっそ切り落としてやろうかと思ったこともある。
奇形風情が俺様に逆らうな。そんな気持ちだ。その生活の中で、世界中のどんな生物の飼育にも体罰が……痛みが足りないんだと学んだ。
そんな接し方でもなんと奇形児たちは男に懐いた。イモとムシはただ暇なときに見ているだけ、他2人には名前すら与えない。にもかかわらず、ある日いつの間にか覚えていた日本語で男のことを「お父さん」と呼んだ。
その時は今までにない興奮が男を襲った。思わず呻くような声を小さく漏らしてしまうほど、心底気持ちが悪くて。こんな見た目なのにちゃんと人間の脳がついているのかという思い。そこに微かな罪悪感。父と呼ばれるとさすがに少しは……そんな2つの思いが混ざった時には脳から麻薬物質が生まれたと錯覚するほどだった。
ムシは成長すると共に力が大きくなっていった。他の子どもよりも速いスピードで体が大きくなり、各手足も欠けることなく伸びた。買ったときは他の奇形児と変わらなかったのに1.5倍は背が高い。まだ小学生くらいの年齢なはずなのに160cmくらいか。
加えて知能も高い。高いというほどではないかもしれないが軽い奇形児たちと同じように日本語をいつの間にか覚えていた。
軽い奇形児たちは男が見ている動画や流している音楽の音声を聞ける機会があったし、持っている漫画や雑誌も見れる状態である時間があった。食事を自分で作らせることもあったしそれらの食品のパッケージなんかから子供の驚異的な学習能力かなにかで日本語を覚えても不思議ではない。
けれどムシはどうやって。軽い奇形児たちが話しているのを聞いたのだろうか。「あー」だとか「いー」だとか「これ、それ」くらいのことを言うのだ。たまにケージの中でぼそくさ1人で言っている。
まさに化け物、鬼のようだ。こいつがこの先襲ってくることがあったら勝てないかもしれない。だから男はムシの首と片足には鎖を巻き付けた。
そしてそれなりに成長してきたイモとムシをそろそろ会わせてみることに男は決めた。
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