第3篇③ 金さえあれば

 奇形の人間を飼育しようと思えばどのような方法があるだろうか。男は考えた。


 一番現実的で常識的な方法で奇形の人間と同じ屋根の下で暮らすとなると、誰かと結婚してできた子供に障害があると祈ることだろうか。飼育するとは違うが、それであれば自然に奇形の人間と暮らせる。


 しかし男はその方法だけは絶対に嫌だった。自分の子供には100%の醜いという視線を送れない。我が子には自分と同じエリートに生まれてきて欲しい。普通に自分の子供が障害を持っているなんて嫌だ。


 きっと生涯を持った子を愛せるできた親でも、過去に戻って子供を作り直せるならそうするだろう。自分だけでなく、誰でも子が障害を持つのは嫌だと男は思った。


 それに、優秀な自分の息子が優秀に生まれてこないはずがない。そんな考えもあった。


 じゃあ、生涯を持って生まれてきた子供を引き取るか。日本には養子や里親といった制度がある。調べたことは無いが、きっと生涯を持った子供を代わりに育ててほしいなんて人間は探せば見つかると思う。


 望んでいない子が生まれたけれど道徳的に見捨てる訳にはいかない。そんな思考を持った人間の一番良い責任逃れだからだ。


 だけど、そうやって引き取った子供をケージに入れて飼っても大丈夫だろうか。国が行う制度だ。義務教育もある。趣味で如何わしい育て方をしている事を隠し通せるだろうか。


 無理ではないと思う。ちゃんと教育すれば。体罰やご褒美、飴と鞭を使って自分はそういう存在なんだと叩き込めば人目につく時だけ自由にさせて置けばそれで大丈夫。


 でも、それもめんどくさい。この優れた自分という存在がそこまで奇形の生物に気を使ってやりたくない。水と餌を入れておけば勝手に生きていくような環境を作りたい。


 加えて男は複数の奇形の人間を飼育したかった。同じケージの中に入れて自由にさせてみるのも面白い。戦うのか協力するのか、初めて自分と同じくらい醜い生物を見たらどんな顔をするのか知りたい。男女だったらより興味深い。


 では、育てる人間を雇うか。里親で引き取られた子供をチェックする奴をごまかすか。金さえあればどうとでもなる。このあり余る富さえあれば人生は思い通りだ。


 色々と考えたけれど、結局男が行き着いた答えは海外への移住だった。


 この広い世界には実際に人間を檻やケージに入れて飼育している人間もいる。明るみに出ていないだけで当たり前に生きている。


 男のように奇形の人間を狙っている人はいないかもしれないが、少女を飼うなんて富豪には大人気の趣味だ。行くところに行けば人身売買なんて当たり前に行われている。


 日本では馴染みが無いが、今も世界のどこかで人間が人間によって捕まえられて売り捌かれている。主に少女が。


 色々とめんどくさいことに挑戦するなら先人たちに習えばいい。男は決断すると行動が早かった。


 運びきれない奇形の生物とはお別れすることになるので、最後にもうひと楽しみさせてもらってから土に還してあげた。


 そして、拠点を海外に移した男はさっそく奇形の子供を数人買った。

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