第3篇② 正反対
男は奇形の生き物を見ていると背筋がぞわぞうするというか、自然と口角が上がってしまうような独特の興奮を覚えた。特に画像ではなく近くで自らの目に映しているときは絶対に他では体験できないと思えるほど……。
胴が異常に短くてまるで蛙のような見た目になっているトカゲ、尻尾も短い。
長い体の一部からももう一つ頭が生えてきている蛇。爬虫類はもちろん数は少ないけれど他の生物よりも双頭で生まれてきたりする確率が高い。それとは違って形の崩れた頭が付いているのでかなりグロテスク。
両手両足が無い蛙は球体としてただケージの中に落ちていた。餌は口元まで持って行って軽く突っ込んであげないと食べられない。野生では間違いなく生きていけないが生きている。その蛙の手足は男が切断した。
元々そういう形で生まれてくる奇形と言える虫も男は好きだった。世界には日本に生息していないとんでもない形をしている虫がいる。日本の家庭で見かけるゴキブリなんて比にならないほど気持ちが悪い。
けれど、それを見ていると気分が良くなってくる。男とはまるで違う正反対の生物達。これらと自分とは、月とスッポンや天と地ほど……いやそれよりももっと大きな差がある。そう思えることで安心にも似た感情になる。
自分はこんな風に生まれてこなくて本当に良かった。優秀な人間という生物で良かった。そう改めて思える。
男は優秀だった。これは男も充分に自覚していることであった。主観的ではなく客観的に見て同じ人間の中でも優れた才能を持っている。
眉目秀麗で総資産も億を超える。じゃないとこんなに奇形の生き物を飼育できない。
高身長で、学生時代は成績もすこぶる良かった。勉強に時間をかけなくても。要領が良い、頭が良いのだ。男の優秀な部分をあげるとキリがない。
全てにおいてその辺の有象無象の人間より優れていると男は思っていた。産まれてこのかた何事も周りにいた人間に負けたことが無い。さすがにあるスポーツで何年も経験を積んでいる相手に初見では勝てないが、よーいドンのスタートの競争事では絶対に負けない自信もあった。
高級な家具と奇形な生物がいるケージが並ぶ部屋で今日も男は悠々自適な生活を送っている。金は株や投資で儲けている。もし何もしていなくても管理する高層マンションから金が入ってくる。
元々の金は学生時代に起業して手に入れた。親も相当な金持ち。その親の金を借りてより大きくしてやった。方法はいくらでも思いついた。そしてその中で一番楽な方法を選択して儲けた。
結局人間頭さえ良ければどんな分野でも成功できる。男の持論だ。勉強ができるというのではなくて頭が良いかどうか。この意味が分からない奴はいくら勉強ができても意味がない。あと、勉強もできない奴はもっとどうしようもないくずだ。
最終的に何もしなくても金が入ってくるスタイルを選んだのも楽だからだった。頭が良すぎる男は自分が動いて社会に貢献するやりがいも、経験せずにどうでもいいものだという結論に至った。光より闇で生きるほうが面白い。
そんな男が最近熱心に考えていることはもっと素晴らしい奇形の生物を飼育することだった。
それは人間。奇形の人間を飼育してみたい。
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