第3篇 奇形
第3篇① モーニングルーティーン
今日も水槽に餌を入れるところから男の1日は始まった。
男はネットの通販で買った魚の餌を魚たちが泳ぐ水槽に入れる。水面に浮かぶ餌に群がって口を開く魚たち。どの魚も派手なヒレと鱗を身に着けている。観賞用に買った熱帯魚だ。
その姿をゆっくり見ていたいけれどまた次の水槽に餌を入れてあげないといけない。男の趣味は様々な生き物の飼育だった。家にはたくさんの腹を空かした生物がいる。
次の水槽でも、そのまた次の水槽でも男は慣れた手つきで餌を水槽の中に入れていった。中で泳ぐ魚は肉食魚だったり、魚じゃなくて亀だったりする。全て近くの川や海で取れるような生物ではなくて珍しいと呼べる部類の生物だ。
当然食べる餌も違って、ペレットだったり小魚の死体だったり。生餌じゃないと食いついてくれない奴もいるのでなかなか管理は難しい。
水生生物の餌やりが終われば今度は別の部屋で陸生成物への餌やりだ。男は生物であればなんにでも興味を持てる人種だった。飼っている生き物の種類は30を超える。1人暮らしの男はその全ての管理を1人でこなしていた。絶対に1人でやらなければいけなかった。
魚のほかには、トカゲや蛇と言った爬虫類からカマキリやサソリのような虫まで。主にそいつらの餌にする用のゴキブリも大量に飼育している。
忌み嫌われている生物だがゴキブリは他の生き物の餌としてはとても優秀な生物だ。栄養価も高いし、捕食者を攻撃することはない。おまけに大体の生き物の餌になる。
トカゲが暮らすケージにはそのゴキブリを入れた。栄養のバランスを取る為カルシウムやビタミンのパウダーを振りかけてから。
加えて男はゴキブリたちの頭を潰すという工程も踏んでいた。普通の爬虫類飼育舎なんかはそこまでしないかもしれないが、男はより飼育している生物が食べやすいようにゴキブリを半殺しにする。
頭が潰れてもよろよろと歩くゴキブリをトカゲの頭が呑み込んだ……。
男は他の誰よりも飼育している生き物を過保護に育てていると自負していた。自分が飼育している生き物が死ぬのが嫌だからだ。死んでしまっては二度とその個体が動くところを見ることはできなくなる。
どんな生物にも絶対に同じ個体は二つとしてない。男にとって各生物の代わりはいなかった。
一通り生き物たちの朝のメンテナンスを終えたら、ようやく男は自分の朝のルーティーンをこなして、コーヒーを片手にテーブルに着いた。
その膝の上に男が唯一飼育する哺乳類の猫が乗ってくる。愛情を求めて、男の手に自らの頭を押しつけてくる。
ああ、なんて醜い生物なんだろう。
男はそう思いながら名前もつけていない猫の頭を撫でてあげた。その猫の額には3つ目の眼があった。その特殊な構造のせいか、それに伴って猫の顔の形は崩れていた。
男が飼育する他の爬虫類なんかも手が無かったり足が多かったり目が少なかったりする。
男は生き物を飼育する中でも奇形の生き物を飼育するのが好きだった。
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