第2篇終 究極のグルメ

 求める人物の心臓は、その人の名前を知るだけで入手できた。


 もっと言えば名前を知らなくてもいい。画像を見るだけでも手元まで頭に思い浮かべた人間の脳が届いた。とにかく特定の人間を頭で決めるだけで良かった。


 男は来る日も来る日も適当に人を選んで殺し続けた。目に付いたものから本当にいい加減に選んで。多少ある傾向的には若くして成功している人物を狙った。男にとって気に入らない存在だったのだ。男とは真逆のそいつらが。


 しかし、そういう人種ばかり殺していても誰かに傾向を知られちゃまずい。お年寄りでも徳のある聖人でも標的にした。


 そしてそういう中に混じって本当に殺したい奴も殺した。嫌味を言ってくる上司や、口うるさい男の兄弟まで。嫌なことを受けるのは慣れっこで心に響くことは少ななかったが死んで当然な奴らだと思った。


 たくさんの人間を殺せば当然、心臓が無くなる謎の連続急死はニュースになった。何の傾向や特徴もない絶対的な死だ。こんなに怖いことはない。世間は恐怖に陥れられた。男を除いて。


 そんな男の悩みは手に入れた心臓の処理についてだった。家にある心臓の数が100を超えたあたりから腐ったような匂いもきついし、どう処理しようか悩むことになった。選択肢としてはどこかに埋めるか燃やすかだろうが、そのシーンを見られたらまずい。


 結局最初に処理をした第一陣の心臓は近くの山に埋めた。深夜に寮を抜け出して、山を登るのはかなり緊張感があった。そして体力的にきつかった。旨い物ばかり食べている男の腹には脂肪が増えていた。


 次からはこんなハードなことはできない。絶対に。汗だらけで帰ってきた男はそう考えた。


 しかし神の手はインプットすることはできてもアウトプットはどれだけ頼んでもできない。じゃあどうしようか……何が効率的か……。


 悩んだ結果に男が出した答えは、心臓を食べてみることだった。


 自分で消化してトイレに流すのが一番良い。


 高級和牛に山の幸、海の幸。旨い物も食べ飽きたというか、もっと旨い物を求めて珍味にも手を出し始めた男は思いついた時良い考えだと思った。人間の心臓なんて食べたくても誰も食べることはできない。誰も知らない未知な味だ。


 実際食べてみると人間の心臓の味は男の想像を遥かに超えてきた。めちゃくちゃ旨いように改造したレバーのような味だ。レバーと違ってさっぱりしていて嫌な後味もないのにコクは何倍もある。


 1個食べただけで男はそれが究極のグルメだと確信した。


 煮たり焼いたり色んな調理法も試した。その全てが旨いと思える代物になった。悪いのは見た目だけ。人によっては感想が違ってまずいと言うかもしれないが、男の舌には驚くほど合っていた。


 特に若い女の心臓が旨い。


 そんなおとぎ話に出てくる化け物のような感想も抱いた。若い女の物で健康的で大きいのは特に良い。女子アスリートの心臓なんて一度食べただけで天に上るほどの快感を舌が感じた。


 そんな心臓食にハマる男が1日2個ほどの心臓を食べる日々が続いた。


 そして、ある日のこと。男の部屋に警察がやってきた。チャイムを鳴らしたドアの先を見ると、制服姿の警察が2人いた。


 男は一気に心臓が縮こまった。ずっと心のどこかで覚悟していたけれど、ついにこの時が来てしまったんだと。


 どこからバレたのかは分からないが、近くの山に心臓を埋めていたのとかもいつの間にか見つけられていたのかもしれない。男はそう思った。


 後が無い男は焦った気持ちのまま、とりあえず神の手にこうお願いした。


「俺が一番幸せになれる物を持ってきて。一番の幸せがほしい」


 玄関前まで来た警察を殺しても少しばかりの延命にしかならない。こっから生き残る答えが見つからない。だからそう言った。神の手に答えを求めた。


 反応しないかと思った神の手は、予想外に手の平を開いてくれた。助かるのかと男は思った。


 しかし次の瞬間、男の目に映ったのは首のない自分の体だった。


 すぐに意識も失った。

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