第1篇⑤ 同業者

 若い女を殺した後、男は丁寧に死体を片付けた。その場所がずっと誰も訪れていない森であるように作り上げた。数時間かけてまで。


 これまた絶対に他人から見つからないようにする為だ。


 唯一、女の頭からくり抜いた眼球だけは自宅まで持って帰った。ホルマリン漬けにして保管するためだ。


 この趣味が定着してからいつぐらいほど経った頃だろうか、コレクションを増やしていく楽しみ方もするようになった。殺した人間の体の1部を持ち帰り、棚に入れて収納する。


 暇があればそのコレクションを眺めて……人を殺す瞬間には程遠いが、非日常を満喫する。時には指を、時には耳を、ある男からは性器なんかまで切り落とした。それらを眺めていると濃く記憶が蘇る。


 若い女からは目を拝借した。本当はせっかく綺麗に切り落とせたものだから、首から上をまるごとホルマリン漬けにしてみたかったがさすがに大きくてかさばる。いざというときは隠さなけらばならないというのに、それが難しくなる。


 他人にここを見られたら終わりと思いながら見るのもそのコレクションの楽しみ方だったが、やはり消せるときはすぐ消せるようにしていないと落ち着かない。


 若い女を殺してから数日後、男は2つの眼球を見ながら若い女の最後の言葉を思い返していた。一緒に死のうと約束していた人への謝罪の言葉だ。


 どうして最後がそんな言葉だったのだろう。若い女が一緒に死ぬと約束していたのはどんな人物なんだろう。


 憐れんでいるのではない。ただその背景を考えるのが楽しい。もう少し待っていたら2人同時に殺害出来ていたりもするかもしれないし、まだそいつが死んでいないのなら上手く殺せるかもしれない。


 だけどたぶんそれは無理だろうと男は考えていた。若い女と同時期に死を予定していて、人に殺されてもいい奴ならもう同業者に見つかっているはずだからだ。


 男と同じ趣味を持っている人間は他にもいた。オフ殺を行っている人間は男だけではない。


 ずっとこの趣味を続けてきて分かっていた。同じ獲物を狙って競争したり、連絡を取り合ったことがあるのも数人いる。自殺志願者を言葉で釣って殺している人間が。


 もしかしたら若い女と一緒に死ぬと約束していたのも同業者かもしれない。そんな風に言って安心させてから相手だけ殺すのは界隈では代表的な戦法だ。


 そんな警察から隠れて人を殺している人間がいくらかいるような世の中を、男は当たり前だと思っていた。


 だって人の死というのはどれだけ綺麗ごとを言っても人類全員が興味を持っている分野だ。殺すつもりはなくても、人が自殺するその瞬間を見たい人間ならば山ほどいる。

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