第7話:入学までの長い道のり その2

 俺は自分のステータスボードを確認して顔しかめた。



 両手で口を覆い。



「うわ…… 俺の基礎ステータス低すぎ?」



 そう、低すぎるのだ。


 レベルが1なのは、まあ仕方ないとは言え全ての基礎ステータスがALL5と表示されていた。


 一昔前の学校の成績表なら高成績なのだろうだけど、このゲームにおいては最低設定の能力値だった。


「え、またまた~ いくら何でもそこまで…… うわ……えっぐっ……」


 俺のステータスを確認したティコも両手で口を覆い呟き、どん引きする。


 というか、「えっぐっ……」ってどんな評価だよ。


 ゲームなら「君の能力なら戦士が向いているね♪」とか「魔法使いがいいんじゃないかな、おすすめだよ♪」とか、基礎能力に応じて勧めてくれて、例え才能が無くても「大丈夫だよ。才能がないなら、何にでもなれるということでもあるのだから、がんばろう♪」とフォローまでしてくれるのに……



「うわ…えっぐっ……」ってなんだよ!!



 えぐい能力値で悪かったな。


 俺のあまりに酷い能力値で驚いていたティコはハッっと我に返り


「だ、大丈夫だよ。 さ、才能がないということは、何にでもなれるということ……だから……タブン」


 ティコさん

 せめて目を合わせて言ってくれませんかね。


 ティコのフォローにもなってないフォローを聞いた俺はもうどうでも良くなってきた。


「決めた」


 俺は決意する。


「何を決めたんだい」


「故郷に帰る」


 ティコは驚いて間の抜けた声を出す。


「……ふえっ!」


 そう、ガネメモには当時としてはソシャゲ時代を先取りしたかの様な、キャラリセマラ用としてコンフィグに[諦めて故郷に帰る]というコマンドがあり。

 これを選択すれば即タイトル画面に戻れるのだ。



「まだ入学どころか王都に着いてさえいないのに故郷に帰ってどうするのさ!」


「故郷に帰ったらニート王に俺はなる!!」


「ニート王がなんなのかは分からないけど……すごくダメな匂いがプンプンするよ」


「止めるな。俺はリセマラをするぞ!!ティコォォォォォ」


 そう言って俺は心の中のコンフィグ画面の[諦めて故郷に帰る]をクリック16連射を開始した。


 しかし、何も起きなかった。


「りせ……って、なに訳の分からないことを言ってるんだい?」

 そう、俺は忘れていたのだ。


 このゲームにセーブやロード、コンフィグなどのシステムは無いことを……





 ティコは驚いていた。


 トーヤの今までの生活を見ていたティコににとっては、武術も魔術の才能もないのは分かっていた。


 でも能力を数値化にすると、ここまで弱いとは夢にも思わなかった。


 通常、人間ならどんなに低い人でも1つくらいは2桁の基礎能力値があり、最低能力値の5はパロメータのうち1つ有るか無いかなのだが、全基礎能力値が人類最低とは有史以来、初めてと言って良い能力値だった。


 時間を超越し、長きに渡り世界を見続けてきたティコにとっても信じ難い出来事である。


(基礎能力値って創造神さまの意向が反映されることがあるって聞いたことがあったけど)


 創造神から使命を帯びた救世主や、歴史の転換期に生まれる英雄など、創造神の意向によって高能力値の者が生まれることはある。


 逆にここまであり得ない低い能力値だとおそらく創造神の意図で設定されたとも思われるが……

 何故、トーヤの能力値は人類最低になったのか、実際わざわざ弱くして何があるというのだろうか、創造神が介入してくるからには世界的に重要な理由があるのだろうが、その意図が全くわからなかった。


 だがそれは、ティコの想像を遥かに越えた理由によるものだった。




 これは後日談の夢の中にて


 ―――「いや~藤也さんの様なガネメモマスターに通常のプレイは失礼かと思いまして、全能力値最低のチートキャラを御用意させていただいたので、これでガネメモ攻略頑張ってください」


 ―――「え、最低能力値のキャラでガネメモ攻略を!?」


 ―――「あっれ~、ガネメモマスターなのに無理なのですか~」


 ―――「で、できらぁっー!!」


 以上が真相である。





(そうだよ。創造神の意図は分からないけど、そんな事は重要じゃない)


 実際ティコにとってはトーヤが強かろうが弱かろうがどうでも良かった。



 ティコの目的はトーヤと一緒に居ることである。



 正直この気持ちは自分でもよく分かってないが、世界の守護者として、時の楔から解き放たれ長き時を生きてきた彼女にとっては大切な想いであった。


(この想いとトーヤが存在する間は、ボクはティコとしてトーヤと生きていく)


 それが現在の彼女の行動原理であった。



「大丈夫だよ。能力値なんてただの数値だよ! 数値! これから3年間落第しない程度に頑張って卒業して、ウィンシニアに帰ろう」


 ティコはトーヤを励ますが、トーヤからは返事がなかった。


 ティコが考え事をしている最中に、トーヤに1人の女性が話しかけてきたからだ。


 会話を聞いていると、彼女は先ほど専用艇で入国審査に来た審査官らしい。


 どうやらトーヤが1人で騒ぎ、わめいていた為に職務質問を受けることになったようだ。


 ちなみにボク、ティコは他人の目には映らない。


 先ほどからのトーヤとの会話は念話ではなく会話でコミュニケーションを取っていたので、周囲から見れば独り会話を行うお近づきになりたくない人物であろう。


 更にトーヤの基礎能力は最低である。

 もちろん周りの反応を得る能力値のAPP(魅力)もなので、周囲からの評価は不審者決定である。


 どうやら、都の詰所に連行されることになったようだ。


 トーヤは必死に弁解しているが、「言い訳は詰所で聞く」とのことだ。


(ふふっ♪ トーヤと居ると本当退屈しないな~)


 こうしてボク、ティコとトーヤの王都での生活が始まった。

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