第5話:いい加減に終わるプロローグその5

 奈落のような闇を抜けると、そこは白い雲の上空だった。


 雲は柔らかそうなので、落下する俺を受け止めてくれるかなと少し期待したがそんなことはなかった。


 現実は非情である。


「おーい、藤也さーん」

 こっちは落下の恐怖に耐えかねている状態なのに暢気な声でシロが話しかけて来た。


「おち、おち、落ちてしぬ!! 何とかしてくれ、してください」


「まだ、地面まで何分かありますから。まだ、慌てるような時間じゃないですよ」


 どこぞのオールラウンダーみたいなこと言いやがって



 シロは大袈裟おおげさな態度で告げた。


「まず、改めてまして、藤也さん」



「ガーネット・オブ・メモリアルの世界にようこそ」



「……は?」

 俺は一瞬恐怖も忘れ「なに言ってるんだコイツ」という表情をする。


「ちょっと待て、何でそんな世界があるんだよ」

 都合良すぎる。


「いえ、こんなこともあろうかと藤也さんの願いを叶える為にこの世界を御用意させていただきました」

 一瞬思考が飛びそうになった。


「何処の世界に、女の子の名前と結末を知るために一つの世界を創る奴なんているんだよ!!」


「ここにいるぞ!!」


 

 いや、そんな胸張って、三国志の武将みたいなこと言われても…


「異世界の転生も転移も既に叶えた願いだろ。それに俺の願いは転生でも転移でもないぞ!」


 そう、シロが叶えられる願いは同系統の願いは無理で、転移も転生も既に叶えた願いであったはずだ。


 だから、シロに考え直してもらおうと思っていたのだが


「ああ、藤也さんの願いは ”黒の少女の名前とその結末を知る” ということでお聞きしていますが」


「そ、そうだ。だから……」


 俺は一縷の希望を見いだしその蜘蛛の糸に掴まろうとする。



「でも、その ”手段” までは聞いていませんので今回はこれで手をうってください」


 

 掴もうとした糸はぶっつり切れた。


(親父、母さんごめんなさい。俺、邪悪な神さまに異世界に落とされようとしています。どうかお元気で)


 俺は、何だか訳の分からないうちに異世界に落とされ、大切な両親にもう会えないかと思うと心が落ち込んできた。



 シロは俺のそんな落ち込みに特に気にせず。


「さて、時間も無いことですので、この世界のルールについてご説明いたします」

 

 おい、少しは俺のことを気にかけろよ。


「まず、この世界はあくまでもガーネット・オブ・メモリアルをした新たな現実世界であって、ゲームで出来たことはいくつか出来なくなっております。」


「セーブ、ロード、コンフィグなどのシステムリソースはありません。ログアウトももちろんありませんよ」


「あと、人物の設定や施設などの背景などはおおむね一緒です。ただ、社会が形成されていますのでゲームとは違う部分もありますので、そこはご自分でご確認をお願いいたします」

 

 次から次へとシロの説明がつづく。


 そして説明を続けていたシロだが特に真剣な表情で言った。

「これが特に大切なことですが」



「この世界の死は絶対です。 ゲームではHPが0になっても戦闘不能状態になって蘇生魔法で復帰できるシステムですが、この世界ではHP0で死亡します。 蘇生は基本不可能ですので十全に気をつけてください」



 死………



 俺はその単語を聞いて背中におぞけが走った。


 飢えも満足に知らず。怪我や病気を負ったら病院で当たり前に治療を受けることができ、幸いにも災害に巻き込まれたこともない。今まで命を脅かす危険とは縁遠い生活を送ってきた俺にとって、身近に近づけられたその死の事実に背中に寒気が走った。


 ガネメモは恋愛要素などよりも、そのリソースを戦闘に重きに置いたゲームである。

先ほどの説明と合わせるとデスゲーム要素の強いゲーム確定であった。


「ちょっと待て! そんなデスゲームな状況に本人の同意なく放り込むって、何処の遊びとゲームを履き違えたマッドプログラマーだよ!! 何考えてやがるんだ!」

 俺の怒りは当然のはずだ。


「だって、ガネメモがしたいって」


「だからといって、異世界のデスゲームのような状況に放り込まれるとは夢にも思わんわ!!」

 海の軍師(笑)の目をもってしても見抜けんわ!そんな状況。


「もしかして藤也さん。私が藤也さんが死ぬような世界に無理やり送り込むような、ひどい神だと思っていませんか?」

 

 そうじゃなかったら何なんだ。


 シロは頬を膨らませ、絵に描いた様なぷんぷん丸な表情をする。

 どんな仕組みかは分からないが頭から蒸気も出ていた。



「大丈夫ですよ。 藤也さんはこの世界に転移転生という形になりますので簡単に言うと、この世界で死んだ場合は元の世界の藤也さんの肉体に強制送還される様にしております。 時間経過も送還された時刻に戻る様にセッティングしておりますので、浦島太郎の様なことはないのでご安心ください」



「ですが……死んだら」

 一呼吸置いたあと



「死ぬほど痛いぞ」

 


 ムカつくほどのイケボでささやいてきやがった。


 デデン!!♪という音楽が頭の中に流れ、この台詞が自然に流れる。


 (何……? このひと……!!)



 シロは俺ならそう返して来ると信じている様な表情で頷いた。

 俺をそんな目でみるな。


「以上で説明は終わりです。ご質問はと言いたい所なのですが、もう時間ですので私は行きますね~」


 かなり高い所から落ちていたが、そろそろ地面が近くなっていたので俺は更に青ざめた。


「ちょっと待て!! パラシュート無しのスカイダイビング状態で放り出したら、俺死ぬぞ!!」


「先ほどの元ネタの人は数百mのビルから落ちても骨折で済みましたから、藤也さんなら平気ですよ。へいき」

 

 いや、俺はそんな人外な身体能力ないし、そもそも俺が落ちている高さは数百mじゃ済まないような。

 


そして、シロはすぐに姿を消した。



「ちょっと待て!! シロさんちょっと待って、待って。ギャー死ぬ死ぬ!!」


 もう地面はよく見える高さまできていた。地面には建造物がいくつか見え、どうやら小さめの村か集落のようだった。


 俺はバタバタと抵抗したが、それで落下速度が緩むことはあろうはずがなかった。



 そんな中、恐らく俺が落下するであろう位置に1人の女性が居た。



「ど、どいてどいて!!」

 このままでは少女を巻き添えにしてしまうと察した俺は、何とかその少女にぶつからないように体を動かし回避しようとするが落下位置はまったく動かなかった。


(む、無理か!! いや、諦めてたまるか!! せめて死ぬなら俺1人で!)


 俺は最後の抵抗を行うが結局どうしようもなかった。


 俺は名も知らない女性にぶつかる。



 ―――ズプン



 通常なら、2人して潰れるであろうがそうはならなかった。


 飲み込まれるような音を発して

 俺、高嶺藤也は彼女の中に溶け込むように消えた。

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