第33話 俺のカブ
小熊が葦裳の下でバイク便の仕事を始めて幾らかの時が過ぎた。
大学生活を含めその日々は極めて単調だが、価値無き単調だとは思わないようになった。
毎回行き先で配送荷物を請け、最寄りの駅でハンドキャリー社員に渡す、代り映えしないような仕事にも不確定要素は存在し、その凹凸を少しづつ均していく。それによって得る退屈と引き換えに、事故の回避という、社会人にとって、無論バイクに乗る人間にとっても最も重要なものを手に入れる。
最初にバイクに乗るバイトをした時も同じようなことを思った記憶がある。昨日と同じような走りをするのではなく、昨日と同じにしていく。
少なくとも仕事内容が安定したことで、より多くの仕事を入れられるようになり、小熊がバイトを始めた最大の目的だった、カブに必要な物々に関する無計画な散財の結果として招いた経済的な危機状況は少しずつ解消されつつある。旋盤の次はバイクを輸送するトランポの軽バンでも買おうか。
これでも日々エキサイティングな仕事を果たしていた甲府のバイク便時代を思い出させるような、印象的な仕事が入ることもある。出版社の依頼である執筆業に携わる人間から原稿を回収してくる依頼を受けた時、自分が多少なりとも正しく道義的人間だと思っている小熊には理解できない理由で原稿が全然書けていないライターの現状を報告したところ、高校時代にバイク誌の仕事を請けた時から付き合いのある編集者からの内々の依頼で、「少々強引な方法」を用いて入稿を間に合わせたり。
ある漫画家がバイク便のシーンを描くのに資料不足で迷った結果、担当編集者が中身の空っぽの封筒の急送をバイク便に依頼するという名案を思いつき、荷受けに行った小熊がバイク便ライダーという生きた資料になってしまったこともある。
雑誌グラビアの類とは密度が段違いの、全方位全角度と言われる作画資料写真を撮られながら、こういう仕事に自分が指定されるということは、案外社長に気に入られているのかもしれないと思った。
社長は「柔軟な応対力や容姿、表情や年齢などを総合的に判断した結果」と言っていたので、単にどこからどう見てもバイク便ライダーにしか見えないということで選ばれただけなのか。相変わらずあの社長の本心は読めない。そもそもあの人に本心や私心というものがあるのだろうか。
最も刺激的な仕事は、小熊がここの仕事を始めてしばらくしてからよく依頼されるようになったサポートやヘルプと呼ばれる業務。バイクの事故、故障や電車の遅延など、急送を予定通り遂行する事が困難になった時、現場に急行し荷物を引き継ぐ仕事。当然結構な追加手当が振り込まれる。
牧場労働に置いて、最も危険な仕事は群れからはぐれた羊の回収だという。羊の通れない峡谷に人力で降りて死を待つのみだったストレイシープを安全圏まで担ぎ上げる仕事は簡単に命が飛ぶ、獲物を狩ったり他牧場との抗争や密猟者相手の銃撃戦がお遊戯と思えるレベルだと聞いたことがある
事故を起こしたライダーのヘルプに行った時は、相手が四十過ぎの初老男性で、女子ライダーがよほど嫌いなのか、カブのドライブレコーダーに記録された自身の運転ミスを頑として認めようとせず、事あるごとに「女のくせに」「女は大人しく素直に」「これだから女は」「俺がバイクに乗ってた頃は」と繰り返すので、相手に掴みかかろうとするライダーを宥め仲裁するのに苦労させられたが、もう年老いてるのに子供みたいな顔と物言い相手ドライバーが「カブ程度でイキってるんじゃねぇ」と無礼なボディタッチをしてきた瞬間、小熊は即座にその男の襟首を掴んで車のボンネットに叩き付け、仲間のライダーに必死で止められつつ、そいつの薄汚れた軽貨物車にヒト型の凹みを作ってやった。
相手が「ヒステリーを起こして半狂乱になっていた女を落ち着かせるためにちょっと肩を押さえた」と称する、実際は相手の自由を奪い押さえつけ性的な接触を行い、暴力の行使を示唆、口頭威嚇している事が明白なボディタッチの画像と、スマホが残した明瞭な音声が残っていたおかげで、小熊はつまらない前科がつくことを回避できたが、小熊が事前に呼んでいた警察官が来た時は「暴行罪破壊罪で俺たち男の敵を逮捕しろ!」と連呼していた男は、数日後掌を返し老母と共に会社まで土下座しに来たが、葦裳社長が以後の接触禁止と被害の完全且つ最終的な弁済を行わせるべく「処理」したらしく、その後の顛末は知らない。あの社長はああ見えて、法曹関係者のみならずそれ以外の筋の負債回収を生業とする人たちとの関係も深いらしい。
幾度かのサポートを受けた結果、小熊のことをシェパードと呼ぶライダー仲間も居た。落伍した爆撃機を誘導し、基地まで連れ帰るモスキート機を描いたフォーサイスの初期短編名作のことを言っているんだろうか、と思ったが、単に走らせるのに便利な奴だが噛みつかれると厄介な奴と思われているのかもしれない。
どちらにせよシェパードは嫌いじゃない。よく行く客先に元警察犬だというシェパードを飼っている家があって、最初に行った時には立派な番犬としいて激しく吠えかけられたが、小熊がジャック・ヒギンズの小説で読んだ「オールド・アイリッシュ・マジック」と呼ばれる、高音を維持した口笛を吹きながら、独特の動きでそっと指を鼻先に近づける方法で手懐けて以来、以降その家に行くたびにオライリーいう名のシェパードは犬小屋からのっそりと出て来て、ほら撫でさせてやるよ、といった感じで頭を擦りつけてくるようになった。
そういえば、フォーサイスもヒギンズも、礼子が心酔しているT・Eロレンスも、小熊と父祖を同じくするアイルランド人。
その日、小熊は東京にほぼ隣接する、神奈川県座間市に来ていた。
今日の仕事は米軍厚木基地で受け取った荷物を、港区麻布の米軍関係者専用宿泊施設、ニュー山王ホテルまで届ける仕事。厚木から麻布山王や赤坂の米大使館までは連絡ヘリが飛んでいるはずだが、今は米軍も経費人件費に厳しく、基地の日本人ガードマンが仕事後に同僚と高級寿司店に入るのを尻目に、スーパーの半額スシを家族に買って帰る日々らしい。
薄給の愚痴を小熊なりに解釈するならば、自分にひとっ走りさせた方が安上がりということか。
小熊が受け取ったのは、依頼人の女性大佐が人目を忍ぶように金庫から出した官製封筒。ごく普通のマニラ封筒に簡素な封印が捺された漫画雑誌くらいの荷物だが。妙に重い。まるで週刊漫画誌ではなく、それよりもっと薄く妙に表紙の固い冊子が幾つも詰まってるような感触で、依頼人の女性大佐は意外と流暢な日本語で「ミチャダメヨー」とだけ言う。
大佐はゲートまで小熊を案内してくれた。大佐と基地内を並んで歩くバイク便ライダー。軍の精鋭部隊が着るタクティカルベストに似ていなくもない恰好の小熊を見た若い軍曹が、何を勘違いしたのか小熊に敬礼する。両手をパタパタさせて「チャオ~」とにっこり笑う大佐の横で、ヘルメットを被ったままの小熊は渋面で答礼する。
マニアでなくとも礼子と一緒に居れば、無帽で敬礼すると、海兵隊ではガニーと呼ばれる古参曹長に蹴っ飛ばされることくらいは学ぶ。
アフロ・アメリカンのなかなかに好男子な軍曹は、型通り小熊が答礼を解くまで直立不動で敬礼していた。
仕事で入ることが許された、相模川の河川堆積地形が開発されることなくそのまま残された米軍基地敷地は小熊にとって興味深かったが、その米軍大佐が小熊も同じ趣味を齧っている女子なのかいちいち探りを入れてくるのが面倒くさかったため、相模原市街地では不動産のランクにもなっている上段、中段、下段の多層な河川地形に興味を残しつつ、足早に基地を後にした。
だいたいああいう本やそのナマモノは小熊の好むところではない。小熊が好きで見ていたアニメが、美男子同士の熱い友情を描いたアニメに売り上げで大差をつけられたこともあって、見る気も起きない。ただ、バイク便を飛ばしてでも同好の士と新刊が無事発行された喜びを共有したい気持ちは、わからないでもない。
荷物の受け取りがスムーズに行われたことで、小熊は予定より早くオペレーターか指示された駅に到着することが出来た。
当然東京二十三区までの急送なので、近隣の駅からは電車を利用するハンドキャリーに荷物をバトンタッチする。
小熊が到着したのは、相模線入谷駅。
厚木基地最寄りの駅がある相鉄線は、車両事故が起きたことで臨時運休している。車両の組み立てや補修に多用されていると聞くガムテープが剥がれたのかもしれない。誰かが足りなくなったガムテープを差し入れてくれるまで復旧の目途は立たないだろう
オペレーターによって運休や振替輸送による混雑を避けるべく、小熊はこの駅に誘導された。何せ荷物の中身は、うっかり電車内でぶちまけたりしすると非常に困る代物。幾ら他人からの預かり物と主張しても、小熊がヘンな誤解を受ける。
単線電車の駅はそこが東京であることが信じられないような簡素な駅だった。
見渡す限りの田園の中に片面ホームの駅がポツンとあるだけで、駅規模の割には広い駐輪場の中に、階段を三段上がるだけのホームがある。ホーム以外何も無い。
片面のホームには簡易な屋根が差しかけられているが、券売機も売店も駅舎も無く。あるのはスタンド型の灰皿のようなsuicaのタッチツールと、家庭用のちっぽけな物置だけ。
地元にあった小海線か身延線の無人駅を思い出した小熊は、苦労して駅前の商店街や繁華街がどこにあるのか探してみたが、見渡す限りの田んぼしか目に入らず、自販機一つ無い。遠くに見える大型家電店は、都内なら電車に乗って2~3駅走らないと着かないんじゃないかというくらい遠かった。
駐輪場に駐めたカブに乗りながら腕時計を見た小熊は、ボトルホルダーに差していたお茶を飲みながら、これは少し待たされるか、荷受け先の米軍基地で大佐の誘いに乗って、メキシコ風春巻きのエンティラーダでも食べて来たほうが良かったかもしれない、大佐は炊き立てのドンブリ飯に乗せると絶品だと言っていた。
お茶を飲みながらスマホを見て時間を潰していると、横に一台のカブが停止した。
そのカブは小熊がプライベートで乗っている物と同じ旧型車体のカブだった。電子制御エンジンの新聞配達用プレスカブで、車体にはアニメキャラのバイナル・ラッピングが隅々まで施されている、いわゆる痛バイク。エンジンを載せ換えてるらしく音は太く、ナンバープレートも九十~一二五cエンジンのピンクに替えられている。季節はもう春だというのに付けっぱなしのウインドシールドの裏には八インチくらいのタブレットが自作らしきホルダーで固定されている。タブレットではサブスクでカブが題材らしきアニメが流れていた。画面に映っていた主人公らしき少女を見た小熊は実にいい女だと思った。
痛バイクのカブから降りたのは、少年といってもいい見た目の男性。女の自分より小柄で肌が白く、ハーフキャップのヘルメットからはみだして襟足近くまで伸びた髪は褐色がかかっている。
その少年は、小熊の着ているバイク便業務用ライディングジャケットと同じ上着姿だった。小熊の所属しているP.A.S.S社では、ハンドキャリー配達員にも同じジャケットが支給されている。
このバイク便の象徴のような、ポケットの一杯ついたメッシュベスト一体型ジャケットが、関係者以外の入場を厳しく監視しているオフィスで、警備員が一礼して通してくれるフリーパスチケットの役割を果たしていることは、小熊自身が何度も経験している。バイク便ライダーは仕事でここに来ていて、そしてその仕事は例外無く一分一秒を争う。
ライダーとハンドキャリーの役割は、分別されているようでいて曖昧で、急なトラブルで小熊がハンドキャリーの代行を務めたことは何度もあるし、多くは自宅から荷物の受け取り駅まで原付で来るハンドキャリーが、そのままライダーを兼任することもある。もっとも小熊は、県内に列車線が三本、あとはリニアの実験線くらいしか無い山梨から来たせいか、都内に網の目のように張り巡らされた鉄道路線を使いこなすハンドキャリーについてはまことに不得手で、代行を引き受けるたびに乗り換えや複雑な出口でオペレーターやスマホの機能に頼りっぱなしだが。
痛カブのハンドキャリー少年は、小熊より小熊の着ている、自分と同じライディングジャケットと、背中に負った社名の看板で待ち合わせの相手だと気づいたらしい、カブからタブレットを外し、自分の契約社員証を呈示した。
「P.A.S.Sのライダーの方ですね? 私はハンドキャリーのこういう者です。ここからは私が荷物を引き継ぎます」
小熊もスマホを取り出して自分の社員証を表示させ、相手に確認させてから施錠されたハンターカブのボックスを開錠し、封筒を少年に渡した。
封筒を受け取りタブレットで伝票のバーコードを読み取った少年は、何か覚えがあるような、頒布イベントの類で何度も触れたような重さと感触、封筒越しにも伝わってくる印刷したての冊子の匂いに少し怪訝な顔をしつつ、自分のカブに付けた、これもアニメキャラのステッカーが貼られた折り畳みコンテナから取り出したディパックに収める。ディパックまでアニメ美少女模様と思いきや、ゲーム会社らしきロゴが幾つか入った大人しい仕様。お堅く頭の旧い職場に届け物をする時の処世術はわかってるらしい。
ホームの風景に似合ってダイヤも都心の電車より疎ららしい相模線が来るまでにまだ時間があったので、二人で少し雑談した。少年は小熊の乗っているハンターカブのことを、小熊は少年のことを聞いた。
少年の話では作家をやっているという父親が新しいハンターカブを気に入っていて、同じく欲しくなったという同業者の間では既に「買うか?」「買うべ」と話が盛り上がっているらしい。
小熊より一つ下の高校三年生だという少年が小熊と同じバイク便会社で働いている理由は、小熊と同じく金が必要だからだと言う。
小熊がそんなに金を稼ぎたいなら、ハンドキャリーじゃなくライダーとして勤務すればいいと言うと、少年は笑って首を振り、ライダーじゃあまり密に仕事を入れられず、本数をこなせないという。現状で高校生活をしつつこなしてる仕事の本数を聞いたところ、小熊を上回っている。
学校に行っている時間と、眠る時間以外の全てを注ぎ込んで働いているという少年に、金の使い道を聞いてみると、少年は一言「カブ!」とだけ言った。
小熊は「そんなにお金かかる?」と聞いた。少年のカブは見た目は痛バイク仕様だが、車体は旧式で、載せ替えられた外国製のエンジン以外に、高価なパーツがついているようには見えない。
小熊の問いを聞き、自分のカブを無遠慮に眺めまわす視線に気づいた少年は、さきほど身分証明に使った後は後部のコンテナに放り出していたタブレットを手に取り、ある画像を表示させて小熊にタブレットを渡した。
「これが欲しいんですよ」
タブレットに表示されていたのは、あるオートバイチューニングメーカーの商品サイトだった。カブ、モンキー用コンプリートエンジン。DOHCヘッドや自社工場製五速ミッションを始めとした、あらゆる高価なパーツが付けられ高度な調律を施されたエンジンの価格は、二五〇ccオートバイが新車で買える値段。
画像を見ていた小熊はタブレットを返し、スマホを取り出しながら言った。
「ヨシムラコンプリートなら、もう少し安く手に入る当てがある。良かったら紹介してあげようか?」
少年は手を振って一笑した。
「遠慮します。もう内金入れちゃってるんです。今月全力で仕事して残金を稼がないとお流れですけどね」
小熊からの連絡先交換の誘いを丁寧に断った少年に、小熊はさっきから気になっていたことを聞いた。
「カブしか無いの?」
この少年の生きる目的はカブだけなんだろうか?カブのために働き、カブに乗るために生きている。カブで働いて使い潰された春目とはどこか対照の存在に思えてくる。急に目の前の少年が物を食わず女とも付き合わず、もしかして息すらしていないんじゃないかと思えてきた。全身のアニメグッズが人間の真似をするだけの表層で、薄いフィルムを剥げば中にはカブしか無い。
少年は小熊の言葉に首を傾げ、それから答えた。
「え? そうですけど? ヘンかなぁ? あははやっぱりヘンなんだろうなぁ」
相模線の青い電車がやってきたので、少年は立ち上がり、タブレットをディパックに詰めて受け取った荷物をもう一度確認する。それから小熊と握手を交わした。
「コンプリートエンジン、買えるといいね、でもエンジンだけ載せ替えても、そこからまた金がかかる」
少年は細身の体に似合わず強く握力で小熊の手を握り返した。出先でカブが壊れて数km押して帰ったことくらいあるのかもしれない。
「その時はまた働きます。カブのためなら何も辛くないし怖くない」
青い電車がホームに停まり、小熊は少年と別れた。荷物の受け渡しを終えた小熊は、少年のカブを見て何か違和感を覚えた。
二重の盗難ロックが施されたプレスカブのタイヤに触れる。後輪を指で押すと張りが無い。やっぱり思った通りスローパンクと呼ばれる、チューブの微細な穴やバルブの不良による僅かな空気漏れを起こしていた。
カブは一部高グレード車種を除き、現在主流のチューブレスよりパンクに弱いチューブタイヤだが、スローパンクと呼ばれる空気圧低下が起きても数日くらいパンクに気づくことなく普通に乗れたりする。そしてその数日が経った頃、空気圧の下がったタイヤは突然波打ちを起こし、コントロール不能に陥る。
足回りの整備は自分で行ってるらしく、各パーツのボルト類はプロではない人間が何度かレンチを当てたらしき痕がある。ブレーキロッドのボルトに刺さっている外れ防止のピンも、メーカーや業者が使用する安価な使い捨ての割りピンではなく、整備趣味の人間が使う、単価は少し張るがワンタッチで着脱、再使用できるベータピンに換えられている。各部のガタつきやチェーンの弛み具合を見るに、割と丁寧な仕事でしっかり整備されているが、チューブバルブの錆びつきを見る限り、安価な輸入チューブを使っているらしい。今はメーカー純正チューブも海外生産品になっているが、並行輸入の通販物は時々ロット単位で粗悪なクオリティの外れ品を引くことがある。
小熊は立ち上がり、両手をメガホン替わりに電車に乗ろうとする少年に叫んだ。
「このカブ!パンクしてるよー!」
少年は「え?」っていう表情を浮かべた途端ドアが閉まり、電車は走り去っていった。
バイク便ライダーとしての仕事を終え、同じカブ乗りに対しても多分に自己満足的な義務を果たした小熊は、国立府中の本社に帰るべくハンターカブを始動させた。
カブのことだけを考え、カブのためだけに生き、整備を頑張っているがちょっとツメの甘い少年。
小熊はもっとカブ以外のことに目を向けたほうがいい、カブに乗る自分の体に気を付けたほうがいい、あと、あのエンジンを載せるならステムとメインフレームの間に強化フレームを溶接したほうがいい、など、助言の二つ三つしたくもなったが、おそらくは余計なお世話だろう。
彼の愛情が詰まったカブを見ているだけでわかる。このカブに乗り続けている限り、小熊や彼の周りのつまらない人間がお節介を焼かずとも、きっと生きていくために必要なことはカブが教えてくれる。
小熊はカブに乗ることで今の生活をより良くする方法を知った。礼子はカブに乗ること自分が望んだ姿で居る方法を得た。椎は目的のためにカブがあること、自分の本当にやりたい事を見失なわない大切さを学んだ。
きっとそのうち、このアニメキャラで一杯のカブが、少年に説教の一つもしてくれるだろう。ここままじゃいけない。もっと自分を大事にしろとでも言うんだろうか。
これでいい、かもしれない。シスターの桜井がいつか言っていた、らしくあれ、神はあなたがあなたらしく生きることしか望んでいない、と。
それが彼の選んだ彼の人生、他の誰にも、カブにさえも触れさせない。
彼だけの宝石。
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