第24話

「そうだ。涼黒、その夢を見た者は?」


 剛昌は喰いつくように聞くも、涼黒は曖昧な内容を剛昌へ伝える。


「見たっちゅう人ばほとんど出ていったんじゃなかかなぁ……怖ぁゆうて、もう見た人ば誰もおらんかもしれん」

「ここに戻ってくる大人たちは?」

「そん人らは見てないけん、ここに残っちょるんよ」

「村には一人も残っていないのか……」

「せっかくこんな村に来たのになんか申し訳ねえなぁ」

「いや、お前が謝ることではない、気にするな」


 涼黒の頭を不器用に撫でてから、彼に表情が見えないように、剛昌はすっと立ち上がって礼を告げた。


「涼黒よ、邪魔してすまなかったな」

「もう帰るん?」

「ああ、夢の話を知る者に会いたかったからな」


 出て行こうとする剛昌に涼黒がぽつりと、


「なぁ、おっちゃん」

「どうした?」

「あのな、一応おるにはおるんよ」

「ん? 居るのか?」

「ただなぁ……」


 剛昌を止めた涼黒は煮え切らない様子。


「どうした」

「いやぁ、どうもこうも……う~ん……」


 言いにくそうにする涼黒……。だが、剛昌も時間を持て余しているわけではない。いくら情が湧こうとも、剛昌はこの時初めて涼黒を睨みつけた。


「ハッキリしないのは好きになれんな」


 涼黒はそれでも言いづらいのか、村の入り口の方を黙って指差した。


「……さっきおっちゃんも会ったじゃろ……?」

「おい、まさか……」

「……だから言いとぉなかってん……」

「はぁ……よりにもよって……」


 剛昌は頭を押さえて立ち尽くしていた。

 話の通じない相手ともう一度会うというのは、さすがの剛昌も骨が折れるのだろう。


「いやぁ、やっぱそういう感じになりようけん、言いとーなかっちゃー……」


 涼黒もまた、頭に手を添えて肩を落とした。


 明らかに落ち込む涼黒の姿に、剛昌はそのまま出て行くか戻るか右往左往する。

 結果、拭いきれない情のせいなのか、剛昌は涼黒の頭を撫でて助け舟を出す。


「まあ、誰も見た者が居ないよりはマシだ。そう落ち込むな」

「だっておっちゃん落ち込んどったもん」

「私のことは気にするな」


 涼黒を慰め終わってすぐに、剛昌は老婆の元へと向かおうとする。


「おっちゃん、良かったら食べる?」


 涼黒は饅頭を差し出したが、剛昌は彼の手をそのまま優しく突き返した。


「お前が食べろ、私は要らん」

「いや、でも――」


 涼黒の言葉を遮った剛昌は懐からなにかを取り出す。


「おっちゃん?」

「これは駄賃だ。なにかきちんとしたものを食べるといい」


 剛昌は慣れないのか。殴るような勢いで拳を涼黒に突き出すと、手を出すように伝えた。

 気に押されて涼黒は素直に手を差し出す。


「え、あ、いやこんなに……!」


 戸惑う涼黒を背に、剛昌は家を出ていこうとした。


「邪魔をしたな」

「あの、こんな貰えんばい!」

「気にするな」

「え、え、ああ、んにゃー……どうしょー……」


 慌てふためき言葉がおかしくなっている声に、剛昌は微笑みながら外へ。


「――――おっちゃん、あんがとー!」


 剛昌はいつものように、振り向かないまま手を上げて挨拶を返す。

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