第12話

 春桜の亡き後、大臣たちに会いに来た翠雲は頭を悩ませていた。

 部屋に七人居る大臣のうち、六人がそれぞれ思い思いの言葉を口にしていた。


「春栄様はまだ幼い、やはり我々が国を動かすしかないでしょう」

「いやいや、あれでも立派な国王。我々が出来ることは春栄様の補助だけだ」

「戦を知らない国王など居ましょうか……」

「戦で英雄になったその息子が戦知らずというのはなあ」

「翠雲殿が春栄様には才覚があると仰っていたが、今の段階ではどうだか……」

「我々が出来ることは少ないが、春栄様もまた少ない」


「――――う、ううん……皆さん、少しよろしいですか?」


 翠雲の言葉で一同は静まり返った。


 春栄に最も近い人物であり、「代理国王」と言っても過言ではない翠雲は、同じ位の大臣たちにとってもかなりの抑圧力となる存在。そして、春桜の死を最初に確認した剛昌と翠雲の二人は、春桜にとっての右腕・左腕のような存在であった。


「「「…………」


 静まり返る中、翠雲から一番遠くの位置に座って黙っていた男――――黒い衣服に身を包んだ剛昌が、翠雲の言葉に続いた。


「これはこれは、飢饉から民を救った英雄からなにか提案でも?」


 嫌みたらしく話しかけた剛昌。


「剛昌、まずは話を聞いてください」


 いつもの戯れの挨拶である剛昌の挑発を軽く流し、翠雲は今後の話を始める。


「春桜の亡き今、春栄様を支えられるのは我等だけであり、私たちは時が経ったとはいえ歴戦の猛者が揃っています。武神と恐れられた春桜様が居なくとも、我等の力を合わせれば、春桜様の右に並ぶことは可能です」


 翠雲はまず、自分たちだけでも、力を合わせればどうにかできるということを伝えてから、また言葉を繋いでいく。


「他国からの防衛を我等が担い、春栄様には、春桜様が出来なかった民を想う国王になってもらいたい……、ほかの皆さんはどうお思いでしょうか」


 翠雲が自分の想いを語ると、大半の大臣は納得していた。

 だがしかし、剛昌だけは翠雲に意見した。


「まだ春栄様は幼い、政治も戦もままならん。加えて飢饉を乗り越えたとはいえ、民は疲弊しきっている。この状況を上手く制御しながら、民の支持を得ることが出来るのはお前だけだろう。なぁ翠雲。お前が春栄様に伝えるのは政治や戦のことだけで済むのか?」


「つまり……?」

「お前が、春栄様を裏で操り、国を統べるとか……な」

「剛昌、あなたの言い分はごもっともです。ですが、今まで私が、己の私利私欲で動いたことがありましたでしょうか?」

「「「……」」」


 一瞬にして冷えていく場の空気に、周囲の大臣たちは「また始まった」とため息を吐いた。


「まあ、過ぎたことはどうとでも言える。それにお前は春栄様に最も近い。影から操らないとも限らん。私の気がかりはそこだけだ」


 疑り深い剛昌は翠雲を表面上、あまり好いてはいなかった。

 そう、だがこれは表面上の話である。


 互いに信頼し、尊敬し合っているからこそ、他の者たちを牽制するため、剛昌は翠雲へと常に噛みついていた。


「……」


 翠雲は剛昌が納得するための言葉を少しの間考えていた。


「さあ、どうするんだ?」

「…………」


 空気がだんだん重く沈んでいく。

 威圧的な空気を浴びながらも、翠雲は無視して言葉を頭の中で繋ぎ合わせていた。


「「「…………」」」


 時間だけが刻一刻と過ぎていく。


「っ……」


 悩んでいた翠雲は案を思いついたのか、ハッとすると剛昌の方を向いた。


「どうした。なにか妙案でも思いついたか?」

「ええ」

「ほう、なんだ」

「では、最初から全て春栄様に任せてみましょう」

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