第11話
次の日の朝、春桜が亡くなったことをいち早く知ったのは、大臣の一人、剛昌という者だった。
玉座の間に居なかったこと、約束していた時間に珍しくいなかった春桜を心配し、部屋に行くと、そこには静かに息を引き取っていた春桜が……。
「――――――春桜様が亡くなったぞー!」
「なんだって!」
「そんな……!」
着々と春桜の死が城下町へと広がっていく。
民の中から複数人が自分の息子を「王の息子だ」と言い張ったが、虚言と王への侮辱の罪として全員が死刑となった。
春桜が唯一愛した者は春栄の母である
生涯、栄鈴以外の女を一度たりとも抱くことのなかった春桜の世継ぎは、確実に春栄だけ。
他の女に手を出すことは生涯で一度もなかった。
春桜の死後、休養に出ていた翠雲も剛昌の部下から話を聞き、すぐさま王城へと戻ると、盛大に春桜の国葬が行われた。
葬送や引き継ぎが終わり、翠雲は玉座に座り込む春栄の隣で静かに佇んでいた。
「春栄様、大丈夫ですか?」
「え、ええ……。気が付けば全て終わっていましたから……。今はなんだか力が抜けてしまって……あはは……」
力無く笑う春栄の表情には悲しみが溢れ出ていて、感情は目に見えて暗く沈んでいた。
翠雲は話しかけるのもやぶさかだと感じたが、今後のことを伝えねばと、春栄に続けて話しかけていく。
「私は大臣たちへ報告しに行きます。お一人で大丈夫ですか?」
「ええ……心配は無用です。これくらいのことで落ち込んでいては、春桜の息子の名折れですから……」
「春栄様……」
無理をして浮かべている春栄の作り笑いが、翠雲の心に深く突き刺さる。
これ以上は野暮というもの。独りきりの時間も時には必要であり、親の死というものは子を飛躍的に成長させることが出来る劇薬のようなもの……。
この出来事で挫けるくらいなら、この国は潰えるだろうと、翠雲は思案する。
「では春栄様、またのちほど……」
「はい」
…………。
翠雲の去った後、玉座で虚ろう春栄は自分でも知らないうちに、瞳から流れるものを機械的に拭っていた。
勝手にこぼれ出る水滴が、衣服の袖を濡らしていく……。
「……父上、亡くなるには、貴方を失うには……やはり私はまだ……未熟であります……」
力なく腕を垂らし、肩を落として脱力したその姿は、魂の抜けた人形のようだった。
時間が止まってしまったような玉座の間で、唯一動き続けたのは春栄の頬を伝う涙だけだった。
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