第9話 壁川まこと
月曜日だ。
俺は早々に仕事を片付けて退勤カードを押した。
といっても、"みなし残業代"として残業代は毎月固定だ。月に12,000円。時刻は23時丁度。カードなんて飾りに過ぎない。
「あれ?六本木君?仕事足りてないんじゃない?まだ23時だよー?」
憎たらしい上司が語りかけてくる。いつもの事だ。
「すいません。今日はインドの牛乳屋さんが牛乳を届けに来るものでして。早く帰らないとヨーグルトになってしまいます。それはそれでいいかってね。」
「相変わらず、ふざけた事言ってるんじゃないよ!」
上司はヘラヘラした顔から、真顔になって怒鳴ってくる。
「あー、私は今日も退勤時間が出勤時間を追い越してしまうなー。」
この上司の仕事しまくってるアピールは聞き飽きたし、俺も仕事を覚えて、この上司に説教される事も減っているので、何を言われても構わなくなっていた。
「お先に失礼します。」
そう言って、こちらを冷たい眼差しで睨む上司を尻目に俺は早々と会社を出た。
(ちなみに、この会社の今の流れは大袈裟に思えるかもしれませんが、作者の実体験です。私はこの会社で長年勤め鬱になりました。)
俺は、約束の六本木駅で親友の壁川まことを待っていた。まこととは大学からの付き合いだ。
約束の時間より少し早めに、まことと合流できた。
「いやあ!サトルちゃん!待たせたかな?」
「そんなに待ってないさ。少しクールダウンできて丁度良い。」
「ふーん。で、横の彼女は?」
!!!
え!見えるのか?まことには、在多(あるた)いるの存在が!
「はじめまして!お友達さん!私、在多いるです!今、サトルさんのお家でお世話になっています!」
「いえいえ、こちらこそ、はじめまして。いるちゃん?でいいかな?僕はサトルの親友で壁川まことさ。気軽にまことって呼んでいいよ。」
「はい!まことさん!」
…て、おいおい。会話まで成立してるじゃないか。完全にまことは、いるを認識してるようだ。
「おい、まこと。お前って、もしかして見える奴だっけ?その幽霊とか…。」
「え?僕は霊とかオカルトな類は信じていないのはサトルちゃんだって知っているだろ?全ては科学的に、あるいは心理学的に解明できるって。」
まことは、再度、いるを見てから俺に聞いてきた。
「それより、なんだい?サトルちゃんの相談って?彼女を僕に見せびらかしに来ただけかな?まあ、僕はサトルちゃんが幸せなら、その姿を見せに来てくれたのは大歓迎さ。しかも、こんなとびきりに可愛い子をね!一体どこで出会ったんだい?僕は早く馴れ初めが聞きたいねー。」
ダメだ…。何故だか、まことには、いるがはっきり見えているし、まことはその通り、オカルトを全般的に信じていない。
まことは、リアリストであり、いつも真実を追求する。このネット社会で起こっている不可解な事も、まことは徹底的に調べて真実を見つけ出す。そういう奴だ。だからネット関連に非常に詳しい。
「立ち話もなんだし、どうだい?2人ともお腹は空いてるかな?とりあえず何か食べに行かない?」
「はい!まことさん!いるはお腹ぺこぺこです!今日は朝ご飯しか食べてないんですよー。」
こらこら、ずっと俺に憑依してるから仕方ないだろうが。
会社の食堂で、いるの分の昼食も買って、俺の前で勝手に食器が浮いて、中の食べ物が無くなっていく姿を他の連中が見たら、怪奇だろうが。
それでも、こっそりとサンドウィッチを物陰で与えたというのに…。
「分かったよ。分かった。まことに色々説明するのも、長くなりそうだ。まずは一呼吸置くのに、外食としよう。」
実はこの時、俺は、すでにまことに、いるの説明をする手段を見つけていた。
「そんなに熱々な馴れ初め話なのかい?サトルちゃん?よし、今夜は僕の奢りだ!2人の祝福を祝ってね!」
「やったー!まことさん感謝です!」
てーか、付き合ってねーし…。
しかし、いるは純粋だ。今まで23年間、幽霊として孤独だったはずなのだ。だから、今はこの賑やかさを楽しんでくれればいい…。
必ず俺が、お前を未来に送り届ける日まで。
そして、俺達3人は"つるとんたん"に入店した。
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