第8話 幽霊になった日

 さて…。未来から来た幽霊、在多(あるた)いるの服は購入し、着替えも済ませた。

 これなら、一緒に歩いて、霊感がある奴に見られても大丈夫だろう。


 しかし、どうしたものか?俺の普段の休日の過ごし方は、昼から居酒屋か、スーパー銭湯というのが定番だ。

 人と出掛けて、したくもない事で体力を使いたいくないのである。休みの日はとにかく身体を休ませる事。省エネ、それに限る。



「サトルさん、この後どうするんです?」

「いや、特に何も用は無いのだが、夜まで正直暇だ。かといってアパートに帰るのも勿体ない。それぐらいのお出掛け日和だ。いるは、行ってみたい所とか無いのか?」


 いるは、額に指をあてて考え出した。

「いるは生前、嵐さんの歌が好きで、よく聴いていました。だから、嵐さんのライブに行きたいのです!」

「すまんな。嵐は昨年末で活動を休止したよ。」

「えー!いるの時代では再結成してますよ!」

「お前のいた時代の嵐って、年齢50代

ぐらいだろ?」

 と、突っ込もうと思ったが、うん、まあ、わりかし最近の芸能界を見ていれば50代でもイケメンはイケメンだし、キレイな人はキレイだ。

 しかし、アイドルが将来何してるとか特に興味もない。

 こいつは。2036年からやって来た幽霊。未来といっても、今から15年後だ。



「あのさ、後15年この世界にいれば、15年後に成仏できるんじゃないのか?」

「サトルさんは、いるが後15年取り憑いてて嫌になりませんか?」

 まあ、そりゃそうだ。しかし意外と謙虚な答えが返ってきて少し驚いた。



 15年か…。長いようで短い。

 しかし、いるは2036年にジョン・タイターに取り憑いて、まさかの時間旅行に連れていかれた。

 2000年の11月にタイターがアメリカの掲示板に書き込みがはじまる。

 その後、2001年の3月に書き込みは止まる。


 タイター曰く、まず2036年から1975年にタイムトラベルし、そこから自分が生まれた1998年に飛び、2000年まで滞在したという。

 1975年にどれくらい滞在したかは分からないが、98年から掲示板に書き込むまで2年滞在していたのは間違いないだろう。これは2000年問題の解決の為の滞在だったのかは、俺には興味がない。



 つまり、いるもタイターと一緒に1998年から滞在しており、その後タイターに置いていかれてしまい、今日の2021年まで、幽霊として、転々と人や建物に取り憑いていたわけだ。

 その年数たるや、23年にもなる。



 23年も迷子状態で、後15年待てと言うのは、酷だな。合計38年間、置いてきぼり…。

 俺がもし幽霊だったら38年は耐えられないだろう。

 しかし、いるは2036年に亡くなって幽霊になった。だから亡くなった、その時代に返さなければ成仏はできない。


 俺は、今までの、いるの経緯を整理し直していた。



「そうだ。いる、そういえばお前は何で死んじまったんだい?」

 SF要素が濃くなり過ぎて、基本ホラーだという事を忘れそうになったので、幽霊に対する普通の質問をしてみた。


「いるはまだ学生でして。ちょうどアメリカに留学していたのです。それで街を歩いている途中で車に跳ねられちゃいまして。で、死んだんだなー。天国行けるかなー。と、自分の遺体を見ながら、どんどん時間が経って…あれ?もしかして、いるは幽霊になっちゃったの??…そんな感じです。」

 死んだ話を明るく言うな。と少し呆れながらも、何故成仏出来なかったのかが気になった。自殺なら納得いくが、完全な事故死なのだから。



「その後、葬式とかは?」

「はい。父と母がすぐに日本から駆けつけてくれて、葬儀をしてもらったのですが、結局ダメでした。父達は勝手に成仏したと思い、事故を起こした男の人と話を付けて、いるの遺骨を持って帰っちゃいました。」


 アメリカで日本式の葬儀を行なって、事故死だから遺体は損傷してる為に現地で火葬。遺骨を日本に持ち帰ったという事か。




 !!




 まてよ?その事故は今から15年後に起こるんだよな?


「いる!お前が留学したのはいくつの時だ?」

「はい?あっ、えーとちょうど20歳の時ですね。」

「だとしたら、この時代に、5歳のお前が存在するわけだ。もし、両親に会い、この事故を防ぐ為に、留学させないように説得すれば、未来は変えられるのではないのか?お前は成仏どころか、20歳からの未来をやり直せる!」



 正直、タイムパラドックスがどーとか俺は気にしない。世の中の誰かしらは気にする事なのかもしれないが、そんな確証の無い理論より、可能性がある事をやった方がいい。俺はそう思った。


「サトルさん!すごいですね!そんな発想全く考えてませんでした。それに、いるも父や母…それに小さい私に会ってみたいです!」

「よし!どうせ今日は暇だ!今から行ってみようではないか!住んでた住所は覚えているか!?」

「もちろんです!」

「よし!案内してくれ!山手線か?都営地下鉄か?とにかく早く行こうではないか!」


 この見事なまでの展開に俺は燃えていた。何故だかわからないけれど、身体中にエネルギーが爆発している感じだ。



「あの…サトルさん?」

「どうした?突然の事で緊張してきたのか?」


「そうではなくて…。いるの実家は北海道の札幌なのです。」


 え…。


 俺は先走った自分を恥ずかしく思い。頭をかいた。



「じゃ…、次の連休で札幌でカニでも食べにいくか…。ま、うちの会社、連休少ないけど…。と、とりあえず飯でも食おうぜ!」


 そう言って、俺は、いるを連れて北海道を売りにしている都内の居酒屋に入っていった。

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