第7話 ファーストミッション

 朝になった。今日は日曜日だ。天気も良く、出掛けるには最高の1日である!


 だがしかし…、この俺にしか見えていないにせよ。在多(あるた)いる、もとい幽霊のこの姿…。



「いる!お前のその姿はどうにかならんのか?」

 ドラえもんのような全身青タイツ。少しでも可愛いく見せる為なのか、無駄な犬みたいな耳付き。そしてフリフリの付いたカチューシャのお化けの三角巾…。


「なにかおかしいですか?」

「ああ、そうだとも。お前のいた未来では、それが普通だとしても、2021年にそんな姿をして歩いている奴なんてのは、ハロウィンかYouTuberぐらいだ。」

「まあ、時代が変わればファッションも変わる。それはいるも分かっていますよ。」

 外に連れ出さなければいいか…。だが、それが無理なのは何となく分かっている。


「俺は外に出掛けるが、お前はどうする?この部屋に取り憑いているから動けんだろ?」

「それは大丈夫です。憑依先は自分で決めている事なので、今の憑依先はサトルさんですから!」


 確かにな。一番単純な答えだ。憑依先を変えられる、それは人間でも場所でもいい。そうでなければ、いるがアメリカにいたジョン・タイターから遥々、この日本に来れた理由が説明つかない。よって、憑依先は幽霊の意思で簡単に変える事ができるのだ。



「しかしだ、いる。外にまで俺に着いて来られると、先程の霊媒師の様に、霊感がある者からは見られてしまう。そういう者達から何か聞かれたり、騒ぎにされても厄介だ。それに、何より恥ずかし過ぎるんだよ。」

「でも、いるは、サトルさんに憑依転嫁したので留守番は無理ですよ?」

 憑依転嫁とは上手く言ったものだ。その言葉は造語にせよ、悪くはない。



 だがだ!だとして、これから職場とかにも付いてくるなら尚更、その格好はやめてもらわねばならない!


 仕方ない。俺は決心して、自分のパーカーとズボンとキャップをいるに渡した。

「これを上に着込め。少し暑いだろうが我慢しろ。」

「わかりました!でも幽霊は気温を感じる事が無いので暑いや寒いは問題無いのです!」

 なんだ、その自慢?


「とりあえず靴はこのサンダルを履け。」

 これで霊感がある奴から見られても、変な目では見られないだろう。それでも男性服をダボダボに着てるのは変ではあるが…。



「じゃあ、出掛けるぞ。」



 いるは、とても楽しそうに外を歩いては、色々な物や、人に関して俺に質問してくる。

 面倒くさく適当に答える俺。

 俺には、とりあえずやらなければいけないミッションがある!はっきりいって、このミッションは過酷だ…。地獄と言ってもいいだろう。いや、地獄の血の池でさえも生温く感じるかもしれんな。



 駅前に付き、俺は辺りを見渡す。あまり、転々とはしたくない。一発勝負の大博打だ!


「ねえねえ、サトルさん?どこに行くのですか?いるは、わくわくしています。」

「何がわくわくだ!?俺にとっては、未開の地、お前は基本的に周囲の人間からは見えていない。だから俺が、男1人で入る事はかなりのミッションなのだ…。」

「ミッション?」

「ああ、これはミッションだ…。行き場所は、行き当たりばったりで入店する婦人服売り場!」

「なんで服屋さんで、ミッションなんですか?」

 いちいち、この俺の男心を、異性に、しかも幽霊に、しかも未来人に!説明するのは面倒だ。



 とにかく一番でかいデパートに入り、見慣れたブランドの婦人服コーナーに直行する。ここのブランドならネームバリューもある上に高級ブランドではない。そして大体の商品は揃っている。


「おい、いる。適当に好きな服と靴。後…、必要なら下着とか、気になったら、このカゴに入れろ。俺はこっちのインテリアのコーナーに居るから。急いでくれよ。」



 そういえば、恋人がいた時も、俺は相手の買い物などに付き合う事が全く無かったな。そういう、相手が望む事を拒絶していたから、俺はなかなか恋人というものが定着しなかったのだろう。

 大体、女の買い物っていうのに付き合わされるのは、世の一般男性の皆だって面倒なものだと思っているはずだ。それでも、付き合ってあげる優しさっていうのが、女にとっては男を見るバロメーターになっているのかもしれん。

 なんて考えていたら、いるは意外に早くカゴを持ってきた。



「サトルさんが急げって言うから、適当ですけど、選んできました。」

 こいつ、けっこう純粋なのかな?と思いながら、カゴを受け取って中身を確認する。側から見たら俺はどう見えているのだろう…。


「まあ、わりと普通でいいんじゃないか?サイズが合うか、あそこの試着室で着替えてこい。その幽霊お馴染みの三角巾もただの飾りなら取るんだぞ。」

「サトルさん。この三角巾だけは、いるも何度か外そうとはしたんですけど、すぐにくっついてしまうのです…。」

 天使の輪のようなものか?

「まあ、いい。そいつは仕方ないにせよ、早く着替えてこい。」

「はい、わかりました。」

 ふと、横を見ると、俺を変な目で見ている女性が2人…。

 独り言のヤバい奴と思われたか。



 少しして、いるが試着室から出てきた。そして、俺は驚いた。


 あの全身タイツで隠れていた頭部から、さらさらなロングヘアーの綺麗な髪。でも、三角巾付き…。



「サイズ丁度良かったです。どうですか?サトルさん?似合いますかね?」

「……。」

 しばし、あっけに取られていた。

「サトルさん?どうかしました?」

「えっ!あ、ああ…。普通だな。ああ。それ買うから、もう一回着替えろ。」



 別に、ただの洋服だ。白いワンピースに、薄いピンクのカーディガン。カーディガンに色を合わせたのか、薄いピンクのパンプス。そして、黒髪の綺麗なロングヘアー。

 でも、美しかった。綺麗だった。可愛かった。


 そんな気持ちを押し殺そうと俺は今、必死にもがいている…。



 だって、幽霊だぞ??

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