第6話 レバニラ炒めの暗号
俺といるは、出前のレバニラ炒めを食べていた。味はまあまあか。しかし、俺は自分が気が付いた推論が間違ってないか、集中していて味わうどころではない。
ふ
「レバニラ炒めって、こんなおいしんだ!ね!サトルさん、ここの中華屋さんは他にも美味しい料理いっぱい?」
いるが目を輝かして聞いてくる。
「食事中だぞ。しかも、口の中に食べ物が入ったまま話しかけるな。マナー違反どころか、下品だ。」
俺に注意された、いるは黙ってはいるが、美味しそうにレバニラ炒めを食べ続けた。
俺は集中したかった。半分も食べてないレバニラ炒めを、いるの前に置いて
「これも食うか?」
いるは、大喜びで感謝の気持ちをジェスチャーで表した。黙って食えと言う命令に忠実だ。これでは、いると言うよりも、犬だな。
俺は窓の外を見ながら、頭の中を整理した。レバニラ炒め…それが何を表しているのかも分かっている。ただ、それが正解であるかの確証が欲しい。
ログインするか…。しかし、俺はあまりパソコンには詳しくはない。学生時代からの親友でプログラミングの仕事をしてる奴がいる。そいつなら何か答えを導いてくれそうだ。
俺はスマホを取り出して、「壁川まこと」の名前を表示。通話ボタンを押す。
まことは直ぐに電話に出た。
「お?サトルちゃん?久々じゃん?こんな休みに何用だい?彼女が居ないんじゃ、暇すぎて電話相手が欲しかったのかい?いやいや、サトルちゃん、1人の休日だって、やりたい事を見つければ良いものなんだがな?趣味が欲しいなら、オンラインゲームとかどうだい?」
まことが一番の寂しがり屋で、おしゃべりなのは良く分かっている。
「すまん。そういう事ではないのだが、まことはネットに詳しいだろ?ちょっと聞きたい事があってな。」
「お?やっぱり、ネットに興味があるってわけかい?なんなら、どんな事でネットを使うのか教えてごらんよ。サトルちゃんがどっぷり嵌まれるようにアドバイスするさ。」
「そいつはありがたい。しかし電話ではうまく伝えられないし、一緒に調べて欲しい事があるんだ。まことの家に行きたいのだが、いつなら大丈夫かな?」
いるは、いつの間にかレバニラ炒めを完食し、俺の電話に聞き耳を立てていた。
「明日はオンラインゲームのイベントが詰まっているかね。遅くてもいいなら、月曜でもいいよ。サトルちゃんは残業は何時ぐらいに終わる感じ?」
「俺は月曜だから多少残業あるが、世間では少ない方だ。早ければ23時には終わるさ。まことは?」
「いいねー。日付が変わる前に退勤できるなんて、今時珍しいホワイトだね。僕は納期に間に合えばいいから、時間は合わせる事が出来るよ。どうだい?六本木駅に23時30分待ち合わせというのは?六本木サトルだけに、ここは六本木駅を待ち合わせ場所にするもんでしょ?」
だいたい、読者でさえ忘れてた俺の苗字をここで絡ませてくるなんて、正直恥ずかしかった…が、まあ、それで了承した。
「最後に確認だ、まこと。」
「なんだい?」
「Facebookは詳しいか?」
「そりゃ、もちろんさ。なんだいサトルちゃん?今更Facebookを始めるつもりなのかい?」
「いや、ともかく…月曜に話すから。」
ガチャ…
俺は受話器を置いて電話を切った。
「サトルさん、おもしろいスマホ置きですね!」
そうなのだ。まさか、作者が間違えて表記したかと思いきや、俺のスマホ置きは黒電話の形をした置物の受話器にスマホを置くと、ガチャ…て音がするのだ。それだけではないぞ!着信があれば黒電話も連動してジリリリリーン!て音がするのだよ!秋葉原の店で9,600円もしたのだ。どんどん活躍して欲しい。
「サトルさん、で、Facebookがどうかしたのですか?」
「いる、お前の時代でもFacebookは健在か?」
「はい。」
「なら、話が早い。」
俺はいるの前に立ち上がり、今の段階で分かった事を説明した。
「ジョン・タイターは出前をしたレバニラ炒めを手を付けずにタイムスリップをした。レバニラ炒めに彼はメッセージを残した。ここまでは、さっきまで推論してた事だ。だが、このメッセージを解く鍵は何だ?」
一瞬の静寂。
「ふ、そもそも鍵なんて必要ない。俺が日本人だから簡単に気付けなかっただけなんだよ。」
「ほえー。」
いるはキョトンとしている。
「タイターはアメリカ人だよな?しっかりとした国籍は分からないが、彼がタイムスリップをしてきたのはアメリカなんだ。てことはだ、俺たちがレバニラ炒めって呼んでる、この料理を英語で表記すると?」
さすがタイターに取り憑いていただけ、いるは英語が分かっていた。
「fried beef’s lever and leeksですか。」
「そうだ!そしてこれはタイターからの言葉遊びによる、ごく簡単なメッセージ。単語の頭文字だけを摘出すると何になる?」
「FBLALですね。」
「その通り。それが何の略称か分かるまで時間は掛かってしまったが。最初のFBで思いついたのは、そう。Facebookだ!」
俺はきっと間違っていない。それは月曜になれば確信になるはずだ。
「残りのLALはなんですか?」
「そいつは、すでにFacebook内で使われている言葉さ。Facebookの行動および人口統計データに基づいたカスタムオーディエンス。つまり、"類似オーディエンス''の事をLALと呼ぶのさ。」
「はあ。サトルさん。正直、いるには全く分かりません。」
そりゃ、そうだろう説明してる俺だってよくわからないのだから。
だから、壁川まことに相談するのだ。
「簡単に言うと、Facebook内で自分を見てくれる人を増やす宣伝場所があり、その中にジョン・タイターは何かの機密事項を残してる可能性があるかもしれないというわけだ。」
「ほえー。」
だめだ。全く理解しようとしていないな…。
今日一日で色々あり過ぎた。明日起きたら全て夢だったら、どんなに楽だろう。明日は日曜日。まこととの約束は月曜日。
明日はゆっくりするか。
そこで俺は大事な事に気付いてしまった。幽霊、在多(あるた)いる…俺は今日から完全にこいつが見えていて会話もしている。幽霊との共同生活?全く予想外だった。
だが、この時は俺はまだ知らなかったのだ。幽霊いるとの共同生活が終わる時、それが思い出になった時、俺がどんな気持ちになってしまうのかを。
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