第5話 ジョン・タイター

「分からんな。ジョン・タイターてのは誰かが未来人になりすまして掲示板に書き込んだ、要はただの2ちゃんねらーみたいなもんだろ?電車男的な。」

「電車男?」

「いや、電車男の事は忘れてくれ。というか、忘れてやってくれ。もう知らない若者も多いだろうからな。」


 俺の目の前には、自称未来から来た幽霊、在多(あるた)いるが座っている。


「で、なんでジョン・タイターと一緒に未来に帰らなかったんだ?そもそも、まだ俺はその話し信じたわけじゃないからな。」

「それは、いるがタイムマシンにタイターさんが乗る時に、ついつい出前に反応して玄関に行ってしまったからです。」

「つまり、タイターに嵌められたんだな?」

「いえ、そんな事はありません。なぜならタイターさんは、いるの存在に気付いていない、霊感ゼロ男だったのですから。」

「それだと矛盾が生じるぞ。タイターは出前を頼んだのなら、タイムスリップは出前を受け取ってからにするはずだ。」


 正直、話がぶっ飛び過ぎて、俺は半分どうでもいいぐらいになっていた。

 しかし、いるは俺の目をじっと見つめてこう答えた。


「サトルさん!いるもそれが気になっているんですよ!なんでタイターさんはタイムスリップをするのに出前を頼んだのか?いるの存在を感知できていないはずなのに。つまり、いるを煙に巻くなんてする事はないはずなのです。」

「おい。煙に巻くの使い方は、ちっと違うんじゃないか?そもそも煙に巻くとは…」

 俺がスマホで検索しようとすると、いるは、

「サトルさん!そんなのは言葉の感覚で使ってるレベルで、いるの時代では辞書的意味等は淘汰されてるんです!」


 やれやれ、疲れる幽霊だ…。話をとっとと戻さないとな。


「で、タイターが何故、出前を頼んだのに、それを受け取る前にタイムスリップしたかだよな?」

「はい!」

「正直、どうでもいい。頼んだ事を忘れてたのだろう。もしくは急ぎで未来に帰らなければいけない理由があったとか。」

「サトルさん!ちゃんと考えて下さい!」

 いや…、割とマジで面倒くせー。この幽霊にとっとと成仏してもらわないと、しばらくこの絡みに付き合わなければいけない毎日になるのか?やれやれだ。



「いるは、なぜ、そんなに気になるんだ?」

 いるの顔は真剣だ。確かにいるにとって、そこは一番の大問題であり、解決策なのだから。

「いるは、未来に帰りたいのです。未来に帰らなければ成仏できません…。だから、タイターさんが未来に戻る時の出来事に何か未来に帰れるヒントがあるかもしれないと思っているのです。」

 それは確かに、一縷の望みでしかない。だが、この現在で未来に帰る方法なんてほぼ皆無だ。だからこそ、いるは、タイターの出前の謎を解決したい気持ちは分かる気がする。



「タイターは何を出前した?」

「中華です。」

 中華料理か。アメリカでもよく箱に入って販売しているイメージがある。

「注文内容は何だったか、覚えているか?」

「レバニラ炒めです。」


 レバニラ炒めか…。何かしらのメッセージを残す為にあえて選んだのかどうか。

「いる、タイターはよくレバニラ炒めは食べているのか?」

「いえ。それどころか、中華料理はあまり食べている印象は無いです。ハンバーガーやピザが多いですよ。」




 つまり、やはりタイターは狙ってレバニラ炒めを頼んだという事だな。


 俺は考えていた。考えていたら段々腹が減ってきた。さっきはピザのMサイズを頼んだが、ほとんど、いるの奴が食べやがったからな。もう一回出前でも取るか。なんならレバニラ炒めを注文しよう。


 俺はウーバーイーツで出前を手配しながら、いるの方を見た。

「お前、メシはまだ食えるか?」

「はい!お腹ぺこぺこです!」

 いるは、目をキラキラ輝かして答える。幽霊は胃袋底無しなのか…と、幽霊の概念がどんどんおかしくなっていく。


 レバニラ炒め定食を2人分頼んで、ウーバーイーツ配達員が来る間、ジョン・タイターが何の為に、普段頼まない中華を出前し、そして、レバニラ炒めを選んで、さもそれがメッセージかの様に、出前が来る前に未来に戻ったのか。



 ジョン・タイター

 2036年から2000年に来た自称未来人

 普段頼まない中華料理

 レバニラ炒め

 出前を頼むも未来に帰った

 …

 …



 何かのメッセージだとしたら…、それは何だ?

 そもそもジョン・タイターは何故未来から来たんだ?俺はスマホでジョン・タイターを検索。


 やはり、気になるのがタイターの言っていた「CERNが2001年近辺にタイムトラベルの基礎理論を発見し、研究を開始する。」

 既にタイムマシンを開発する各国での競争が始まり、2015年に核戦争が起きると言っている。だが、今は2021年。

 タイターの予言は外れている。外れている…だけなのだろうか?タイターが2000年に掲示板に書き込んだ事で、タイターの世界線と、我々の世界線が変わっているのだとしたら?遅かれ、このままだと核戦争は起こるのではないのだろうか?



 と、細かい事を考えているうちに、いるは勝手に俺の漫画、ゴルゴ13を読んで、よく分からんが感動して泣いている。そんな、いるを遠巻きに見ていると、幽霊とか、未来人とかでなく、ただ普通の女の子って感じに見えてきて、「バカか俺は!」と自分の頭を叩いた。



 ピンポーン


 出前が届いたらしい。チップを貰えなかったのが不服そうに態度に表れていたので、俺はその配達員の評価を低評価にしておいた。何とも心の狭い俺。


 テーブルに料理を置き、メニューのチラシに目を向けた。




 !!!


 俺は気付いた!タイターの残したメッセージを!!

 

 


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