第19話 森

 目を覚ます。

 まだ見慣れない木目の天井。

 隣には真っ白なオオカミ。


 俺はシロの毛を踏まないように注意しながら、体を起こす。

 ちなみにシロとは、このホワイトウルフの子どものことだ。

 レストランを出た後、宿屋で俺が名付けた。

 見た目が白いのでシロだ。

 シャルルには、情が移るからやめときなさいと言われたが、名前があった方が何かと便利だと思ったので名付けた。

 センス無いわねと言われたが、思いのほか気に入っている。



 窓を開ける。

 部屋に入り込んできたのは、肌を刺すような冷たい空気。

 よかった、まだ日は昇っていない。

 これなら、今日は問題を起こさずに森へ行けそうだ。


 昨日の夜、俺の魔力はなぜかすっからかんになっていた。

 まあ、今は回復しているが、原因が分かっていないので、少し気をつけよう。

 

 服を着替えて、昨日シャルルが買ってきてくれた晩飯の残りを口に放り込む。

 そして、昨日の狩りの成果、大銀貨1枚と銀貨2枚で買ったポーション2個を腰の巾着に入れて、準備完了。

 これも、昨日シャルルが冒険者ギルドで換金してくれた。

 ちなみにポーションは1つ銀貨5枚だった。

 高すぎだちくしょう!

 服も買い換えたので、俺の残金は0枚。

 この世界でも、相変わらずの貧乏生活だ。

 シャルルがいなかったら野垂れ死んでるな、俺。


 いつの間に起きたのか、俺の足下にシロがいた。

 今の状況を把握しているのか、声も出さず、じっと俺を見つめてくる。

 頭をなでると、嬉しそうに目を細めた。


 ……かわいいな。

 鹿肉をあげる。

 そして、昨日と同様、外套の中に隠す。

 俺たちは2人で森へ向かった。


ーーーーーーーーーー


 歩くこと1時間。

 昨日シロを見つけたポイントにつく。

 もちろん道中に問題は起こしていない。

 やはり、朝早く出たのがよかったみたいだ。

 街中でもあまり人と出会わなかった。


 ホワイトウルフを探して周りを見渡す。

 単刀直入に言おう。

 シロの親はいなかった。


 薄情な親だ。

 自分の子を見捨てるなんて。

 一体どんな親か一目見てみたいものだ。



 ……俺の親と仲良くなれそうだな。


「ワン!」


 シロの鳴き声。 

 ふと我に返る。

 見ると、シロは正面の茂みをかき分けていた。


 何か見つけたのだろうか?

 何も考えず、シロの後をついて行く。



 おおっ!

 これはいいな!!


 そこはまるで広場のような場所だった。

 肌触りの良さそうな青い芝生。

 闘技場のフィールドと比べると4分の1程度だが、森の中では充分広い。

 ここならシロの親がもし探しに来たとしても、俺たちをすぐに見つけられるだろう。


 シロが広場の中心に座る。


 シロは強いな。

 俺とは大違いだ。


 俺も広場を進んで、シロの横に座った。


ーーーーーーーーーー


 日差しが差し込むこの場所は、早朝の今でも暖かい。

 いつもより早く起きたせいか、ポカポカした空気とともに眠気が襲ってくる。


「シロ。昨日はなんで傷だらけだったんだ?」


 あくびをしながらシロに話しかけてみる。

 もちろん、返事は返ってこない。

 伝説の魔物っていうから、もしかしたら喋れるんじゃないかと思ったが、そんなことはないみたいだ。

 っていうか、喋れるなら昨日から喋ってるよな。


ーーーーーーーーーー


 ……眠い。


 広場で待つこと1時間。

 雲がかかったのか日差しは無くなっていたが、俺の眠気は収まらない。

 こんなところでポーッとしてれば誰だって眠くなる。

 魔物でも現れてくれれば、狩りが出来るんだが……。

 そう簡単にいかないよな。

 シロを親と再会させることが一番の目的だから、

 ここを動くわけにもいかないし……。


 そうだ!

 眠気覚ましに昨日の修行のメニューでもこなそう。

 まずは魔法だ。

 いや、魔法の練習はシロを攻撃してると勘違いされて、

 ホワイトウルフに殺される可能性がある。

 しゃれにならないので魔法は止めておこう。

 ということは……。

 やっぱり筋トレか? 

 嫌だな~、筋トレ。


「え?」


 突然、今まで動かずにジッとしていたシロが、俺に突っ込んできた。

 気を抜いていた俺は、当然、身動きが出来ず、シロの突撃をまともにくらう。

 背後に吹っ飛ぶ俺。

 無様に空を見上げる。


「うわぁ~!!」


 俺は悲鳴を上げた。

 シャルルにバレたら笑われそうだが、そんなことを気にする余裕など無かった。

 無様に空を見上げた俺の目に映ったのは、空を覆う無数の黒い物体だった。


 怖い!

 なんだあれ!?


 シロは俺の上に馬乗りになっていたが、すでにどけている。

 牙をむいて威嚇する姿は、すでに臨戦態勢だ。

 俺も急いで立ち上がる。


 よく見ると、俺がさっきまで座っていた場所には1メートルほどの黒い槍が刺さっていた。

 瞬間、背中に嫌な汗が流れる。


 もし、シロが俺を突き飛ばしてくれなかったら、俺はあれが貫通して死んでいた。

 俺の異世界生活は終わっていた。


 俺のバカヤロウ!!!

 昨日は散々学んだじゃないか。

 森は危険な場所だって。

 俺じゃ手に負えない魔物は無数にいるんだ。

 気を抜くな、俺!!

 空から槍が降ってくることだって……。


 広場の中心に突き刺さっていた槍がいきなり動いた。


 俺は勘違いをしていた。

 広場の中心に突き刺さったそれは、槍なんかじゃなかった。

 

 それは真っ黒なカラスだった。

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