第10話 魔法
……そうだな。
まず異世界と言ったらこれか。
「魔法について1から教えて欲しい」
「子どもでも知ってることを聞くのね」
当たり前だ。俺はこの世界に来てまだ2日目だぞ。
子どもというより、生まれたてみたいなものだ。
「しょうがない。しっかり聞きなさいよ。
まず、この世界の生き物は皆、魔力を宿しているの。
その魔力を体内で変換して外に放出したものを魔法と言うわ。
魔法には火、水、土、風、光、治癒の6種類があって、その内、
治癒魔法だけは選ばれた人しか使えないの」
なるほど。魔力と魔法は厳密には違うのか。
「そして、これが魔力還元」
上に向けたシャルルの手のひらから、拳大の炎が出現。
ゆらゆらと燃える炎は、次の瞬間、シャルルの手のひらに吸い込まれた。
「自分の魔法を魔力に戻して吸収する。
これが出来ないと魔法は使っちゃダメなのよ!」
ギロリと俺を睨むシャルル。
その節はすいませんでした。
「一回やってみなさい。魔力還元」
「え? 今??」
「今じゃないと教えないわよ」
「今すぐやります」
急いで手のひらを上に向ける。
意識するのは先ほどシャルルが生み出した炎だ。
できるだけ小さく、小さく……。
ボォ
よし! 出来た!!
「それを魔力に戻して吸収しなさい」
えーと、炎を魔力に戻して……。
うん! 出来ない!!
「ほら、早くしなさい」
「……出来ないです」
「はぁ、しょうがないわね」
シャルルが急に右手を前に突き出した。
その右手から大量の水が発射される。
俺は全身ずぶ濡れになった。
「おい!」
「これで火は消えたでしょ。
今度は、体を通る魔力をもっと意識して魔法を使いなさい」
こいつ、俺に水をかけたいが為にわざと教えなかったな!
服や体を濡らした水がシャルルの元へ戻っていく。
俺の体は一瞬で乾いた。
が、それとこれとは話が別だ!!
「ほら、イメージして」
唐突にシャルルが俺の右手を握る。
うわっ! ちょ、ちょっと待って!!
心の準備が……。
「目をつぶって」
「は、はい!」
……ダメだ。緊張する。
手汗は大丈夫かな?
って違う、違う!
魔力だ。魔力を意識するんだ!
目をつむって数秒。
右手から何かが流れ込んでくる感触が。
それは、腕、心臓、頭、足と全身を駆け巡る。
右手に戻るとその感触は消えて無くなった。
だが、全身を違う何かが流れる感触。
……これが魔力か?
目を開ける。
シャルルがそれを見て右手を離す。
俺は先ほどと同じように、炎を生み出した。
今度は分かる。炎に俺の魔力が流れていることが。
炎は俺の右手に吸い込まれた。
「うん。いいんじゃない」
おお~!! できたぞ!!!
「今の説明で分からなかったことはある?」
いや、全くない。
すげー! 全身に流れる何かを感じる!!
これが魔力か!!!
「魔力が意識できたら、光魔法はもちろん、魔法のレパートリーが増えるわよ」
そうなのか!
いや~、わくわくしてきた!!
もっといろんな魔法を使いたくなってきたぞ!!
っとその前に。
「光魔法?」
「光魔法は、体内の魔力を変換せずに放出した魔法よ。
つまり、魔力と一緒ってことね。
剣や盾になるけど、あんまり使わないわ。
戦闘でも意識しなくちゃいけないから、それなら売ってる剣や盾の方が優秀だし」
そうなのか。なんか凄い魔法なのかと思ったが、あんまりなんだな。
エクス○クト・パトローナムみたいなことが出来るのかなと思って、
テンション上がったのに。
……あれ?
今気づいたが……
「魔法を使うときに詠唱は必要ないのか?」
「必要ないわよ」
マジか!?
そういえば、俺が初めて火魔法を使ったときも言葉は何も発してないし、風魔法
だって何も言わずに使えた。さっきだって詠唱はしていない。
……え? ということは、俺が闘技場で「ファイヤーボール!」って叫んでたのって、周りから見たら痛い奴だったのか?
やべっ! 今になって恥ずかしくなってきた。
「必要ないけど、意味はあるわよ」
……ん?
「どういうことだ?」
「詠唱をした場合、決まった魔法が発現するのよ」
全然意味が分からない。
「あなたの場合、ファイヤーボールっていう火の玉ね。
詠唱をした場合、同じ大きさ、威力、魔力の魔法が出現するってわけ」
「それが普通だろ?」
「はぁ、あなたってほんとバカね。
そんな考え方じゃ、一瞬で死ぬわよ」
え? マジで??
「戦闘において同じ魔法を使うことなんてほとんど無いわよ。
あなた、森を燃やしたこと忘れたの?
フィールドや戦う相手、その時の状況によって、魔法の大きさ、威力、魔力も
変わってくるでしょ!」
言われてみれば確かに。
「まあ、それがメリットであることも確かなんだけど、おすすめはしないわ」
「なんでだよ?」
「詠唱魔法にはデメリットがあるからよ」
そうなのか? あまり想像がつかないが。
「どんなデメリットがあるんだ?」
「まずはさっき言ったとおり、同じ魔法しか使えないこと。
魔法は魔力を体の中で変換させてから放つっていったでしょ。
詠唱をすればそれが無意識で出来るんだけど」
「いいことじゃないか」
「だめよ! 無意識でするってことは、大きさ、威力、魔力を変化させにくいってことなのよ。
あなたのファイヤーボールのイメージがそのまま反映されるんだから」
つまり、俺のファイヤーボールは、あれ以上強くも弱くもならないってことか。
でもそれなら、ファイヤーボール改、とか名前を変えていけばいいんじゃないか?
「詠唱魔法のもう一つのデメリット。
それは詠唱が終わらないと発動しないこと」
「当然だろ?」
「あなた、この意味分かってないでしょ」
彼女の目が細くなる。
これは、おとなしくしたがっておいた方が良さそうだ。
「……はい」
「あなたのファイヤーボールだと、ルを言い終わらないと魔法が放たれないのよ」
それがどうしたんだ?
「つまり、初めの三文字ぐらいでどんな魔法がくるか、相手にばれるってこと」
「そんなこと、出来る奴いるのか?」
「……私は出来るわよ」
こ、怖ぇ~!
「他にもデメリットはあるから、詠唱魔法は使わない方がいいわ。
使うにしても、詠唱なしで戦えるようになってからね。
詠唱魔法は途中でキャンセルも出来ないし、何よりその魔法を頼りすぎてしまう。
それを読まれてカウンターなんて食らったらひとたまりもないわよ」
こいつ、結構賢いんだな。
これからは言動に気をつけよう。
「ま、詠唱魔法はこんな感じかな。
他にはある?」
「う~ん。……そうだ!
治癒魔法ってどんな奴が使えるんだ?」
「あぁ、治癒魔法はセンスよ。生まれ持った才能。
原理は相手に自分の魔力を送り込むだけなんだけど、治癒魔法が使えない人がやると、一定量で相手が拒否反応を起こしちゃうの。
だから、治癒魔法を使える人はその魔法を使うだけで暮らしていけるわ」
なにそれ!? 最高じゃないか!!
もし、俺にもその才能があったら……
「安心しなさい。あなたにその才能は無いから」
「なんで言い切れるんだよ?」
「治癒魔法を使える人は回復力が他の人より強いのよ。
でも、あなたは普通よりちょっといいぐらいだったから治癒魔法は使えないわ」
えっ!? あの回復のスピードでちょっといいぐらいなの!?
治癒魔法を使える人って凄いんだな。
「他に聞きたいことはある?」
……他にか。
魔法はもう充分すぎるほど教えて貰ったし、文字なんて今聞いたところで、
すぐ忘れてしまうだろう。この世界の歴史は……。いいや、めんどくさいし。
う~ん。何か聞きたいこと……。
あっ、あれを聞いておかないと。
「この世界にはどんなお金があるんだ?」
「え、どんなお金って……
銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨のこと?」
「そうそう! それぞれどんな関係なんだ?」
「銅貨10枚で大銅貨1枚。大銅貨10枚で銀貨1枚。残りも同じ感じよ」
銅貨1枚を十円と仮定すると、大銅貨は百円、銀貨は千円、大銀貨は1万円、金貨は10万円か。
変わった単位で覚えるのに苦労するかと思ったが、銅貨、銀貨、金貨なら簡単だ。
分かりやすくて助かった。
「もういい?」
「そうだな。今聞きたいことはこれぐらいかな。
助かったよ、ありがとう!」
「どういたしまして。
そういえば、あなたこれからどうするの?」
あれ?
言われてみれば、俺、この後どうすればいいんだ?
金はないし、職もないし、宿もない。
この状況、結構やばくね!?
「ちなみに、私、あなたを買うのやめたから。
それだけ忘れないでね」
……は?
「俺を買うのやめたってどういう意味だ?」
「そのまんまの意味よ」
な、なんだって~~~!?
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