第22話 クーロック


 それから数日後、準備を終えた私たちはジャンペルを発ってアーザムを目指していた。

 結局あのアンという女の人とはあれ以来会うこともなく、私と師匠はひたすら毎日森に出かけては見かけた害獣を殺して回っていた。

 師匠は感覚を取り戻すためと言っていたが、実のところは私がただ相手を殺すという行為に慣れるための訓練だったのだろう。

 その成果というべきか、最初は抵抗を覚えていた私も、徐々に考えるのをやめてただ殺すという行為に慣れ始めていた。

 それが良いことなのか悪いことなのか、そんなことも考えないうちに。




「お、あれがクーロックじゃないか?」


 ジャンペルから発って数時間が経ち、最初は何かを話していた私たちの口数も少なくなってきた時、ライラさんが遠くを指差しながらその沈黙を破った。


「うーん……たしかにぼんやりと何か見えるわね」

「とりあえず一安心、ですね」


 クーロックとは最初に私たちが目標にした場所であり、広大な草原に佇む大きな岩のことだ。

 このだだっ広い草原では同じような光景がどこまでも広がっており、それ故に目印となるこのクーロックはこの草原を抜ける上で重要な場所の一つなのだ。


「しっかしのどかな場所だよな。害獣もいないし、見かけたのも草食の野生動物くらいだ」


 この数時間を振り返るようにライラさんがそうボヤくと、師匠がそれに答えた。


「害獣っていうのは肉食の野生動物の中でも特に燃費が激しくて、他の動物を食い荒らす生き物の総称なのよ。だから動物の少ないここでは生きていけないの。逆に言えば、害獣から身を守るために数が増えすぎないようにして生きているのがここらの動物の特徴でもあるわ。草食動物にしても、肉食動物にしてもね」

「へぇ……手ことは肉食動物もいるんだな」

「そうね。ただ肉食と言っても、獰猛な生き物じゃなくて───」


 師匠が言葉を続けようとした途端、先頭を歩いていたライラさんが突然揺れだした。


「なんだ!?」


 ライラさんがそう叫んで束の間、ライラさんを跳ね上げるように地面が勢い良く隆起した。


「うおっ……と!」


 しかしライラさんはバランスを崩すことなく跳び上がると、私たちの方へと飛び込んできた。


「今のは……ってなんだぁ!?」

「これは……」


 隆起した地面の方を改めて確認したライラさんは素っ頓狂な声を上げ、私も思わずあんぐりと口を開けてしまった。


「───これが、この草原に住んでる肉食動物、ヤーガムね」


 一人だけ冷静な師匠が指差す先には、まるで地面に突き刺さるようにして大空に向かって大きな口を開けている、亀のような生き物がいるのだった。

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