第20話 暴走


 茂みを迂回しながら奥の様子を確認すると、そこにはやはりグリズリーが縄張りを主張するようにどっしりと座っていた。


 師匠のアイコンタクトを受けて私が気配を隠しながらグリズリーに近づいていくと、グリズリーは何かを察知したようにあたりの警戒を始めた。

 これは、私の村の近くに生息していたグリズリーの反応と比べると、少し薄い反応だった。

 私の村の近くに生息していたグリズリーなら、漏れなく私が近づくと同時にこちらに気づいていたのだ。


 私はグリズリーの程度を低めだと判断すると、地面を蹴って一気にその距離を詰めた。


「grr!」


 それに少し遅れるようにして、グリズリーが唸り声を上げた。

 グリズリーはこちらを振り向くと、一直線に向かってくる私に対して直線的にその大きな拳を振り下ろしてきた。

 私はその拳が当たる寸前のところで身体を捻って躱し、その拳を横に吹き飛ばすように衝撃波を発生させた。


 グリズリーはその衝撃波で腕ごと横に吹き飛ばされ、重心を崩すようにもたれた。

 私はその隙を逃すまいと踏ん張り、私の前にさらけ出されたグリズリーの足に向かって再び全力で衝撃波の魔法を放とうとした。

 しかし、平常心を欠いていたのか、私の手に集まった魔力は沸騰するようにその力を溢れさせ始めた。


「───はぁッ!」


 私が慌ててその魔力を解き放つように魔法を放つと、その衝撃波はグリズリーの足を地面ごとえぐり取り、その余波で私の身体も吹き飛ばした。

 私は喉を通らない悲鳴声を上げ、なすすべもなく空中を駆け抜けた。


 そしてそのまま私の身体五つ分ほど飛ばされていたところを、何者かによってふわっと抱きしめられた。


「きゃっ」

「あら、可愛い声も出せるのね」


 頭上から聞こえてきた声に目を向けると、逆さまの師匠の顔が見えた。


「……からかわないでください」

「ふふっ、いいじゃない。私だってペリットちゃんに驚かされたんだから。……いきなり無茶しちゃだめよ?」


 師匠が困ったようにそう言うと、私の身体を地面に下した。


「ごめんなさい。魔力が抑えきれなくなってしまって……」

「そうねえ……」


 師匠はうわの空気味に相槌を打つと、グリズリーの方を眺めた。

 そこには片足のもう一方の脚を半分以上失ったグリズリーと、人が一人はすっぽりと埋まりそうな穴が開いていたのだった。

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