第9話 旅路
ティーメル村を経ってから数日が過ぎた。
最初こそ少しばかり心躍らせていた旅というものだったが、その理想は開始数刻にして打ち破られることとなっていた。
私たちの旅は、主に馬車での移動だ。
私たちなどといったが、カルシアロードを行きかう旅人たちはみんな馬車である。
道も整備され、道中の安全も国の兵士たちによって護られている。その上、ひとつひとつの街の間隔が相当長いのだ。この道を歩いて行こうなんて人は、余程酔狂な人だけだろう。
私は別に、そのことについて直接的に不満があるわけではない。
そう、私の不満というのは───馬車の揺れだった。
上下に、左右に。まさに縦横無尽に揺れる馬車の中で、私は乗り物酔いという現象に苦しめられることとなっていたのだ。
「……もう無理」
ようやくたどり着いた休憩場所でぽつりと弱音を漏らすと、縮こまっていた私の身体が人影に覆われた。
「やっぱり辛いの?」
声のした方を振り向くと、そこには心配そうに私を見降ろすカーミアさんの姿があった。
「いえ、大丈夫です」
そう言って立ち上がったが、思わず足元がふらついてカーミアさんの方に倒れ込んでしまった。
「もう……もう少し甘えてくれてもいいのよ?」
「……いえ」
私が頑なにカーミアさんを拒もうとすると、カーミアさんが突然私の手を握ってきた。
「悲しいわ。私のことは嫌い?」
カーミアさんは本当に悲しそうな表情で、私は自分の心が痛むのを感じた。
私は、その心を抑え込むように唇を噛んだ。
「嫌いじゃないです」
「なら、何か知られたくないことでもあるのかしら?」
「どうして……」
思わず出たその言葉に、私は何も続けることができずに黙り込んでしまった。
カーミアさんはそんな私を見ると、視線を少しずらしてどこか遠いところを眺めるような目をした。
「……隠し事なんて、なんにもいいことは生み出さないわよ。本当に」
その言葉は私の胸に刺さるように響いたが、私はそれ以上何も言葉を出すことはできなかったのだった。
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