第10話 ジャンペル


「それじゃあ、次の街のジャンペルからアーザムまでは歩いて行くことで決まり。いいわね?」

「おう」

「ペリットちゃん、次の街までは頑張って我慢してね」

「……はい」


 私の乗り物酔いについて三人で話し合った結果、二対一で馬車での移動は中止ということに決まった。

 当の本人である私がいいと言っているのに、困ったものだ。


 ……困ったものだが、どこか温かい気持ちがわいてくるのだった。





 緑の街と呼ばれるジャンペルに着いたのは、それから三日後だった。

 相変わらず乗り物酔いに苦しめられていた私は、正直もう二度と馬車には乗りたくないな、と思うようになっていた。


「さてっと、久しぶりにのびのびできそうね」


 ジャンペルに入っての第一声は、カーミアさんのそんな一言だった。


「ほら、歩き旅の準備を整えるだけだから任務もなし、ジャンペルはゆっくりするにはもってこいの街だし……ね、ペリットちゃん」

「え?はい……」


 そんな風に呑気なカーミアさんに対して、刺すような視線を向けていたライラさん。

 その視線から逃れるように、カーミアさんは私に同意を求めてきていた。


「……まあいいけどな」


 半ば折れたようにライラさんがそう言うと、カーミアさんは「やったー!」とか言いながら私に抱き着いてきた。

 そんな様子を呆れた顔で眺めていたライラさんは、注目を集めるように一つ咳払いをした。


「ひとまず宿を探そう。それから組織に通達を出す。あとは……」

「自由時間ね」

「……そうだな」


 カーミアさんはなぜか私の方に満面の笑みを浮かべると、我先にと宿を探し始めた。


「鬱陶しかったら、はっきり言ってやった方がいいぞ」


 ライラさんはカーミアさんの方を見たままそう言うと、カーミアさんの後を追って歩き出していったのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る