第3話 宿探し


 ティーメル村に入ると、私はその活気に驚くことになった。

 ティーメル村はカルシアロードに繋がっているとはいえ、最果ての、辺境と呼ばざるを得ないような村だ。

 それでも、私のいたグレ村と同じ『村』というくくりで本当にいいのかと思えるほど、規模が違っていた。村の中は建物や人で溢れかえり、グレ村が守ってきた自然との共存という気配は、少しも感じることができなかった。

 それが新鮮でもあり、不安でもあり、私はどこか沸き立つような気持ちを感じていた。


 しかし、とにかく今は宿探しだ。

 私はさっそく、近くにいた、腰に剣を携えている女の人に声をかけた。


「あの、お家に泊まらせてもらえませんか?」

「は……?」


 その人は驚いたように私を見ると、困ったように頭をかいた。


「いや……どこの娘だよ、アンタ」

「えっと、旅をしてるんです」

「……だったら、宿にでも泊まったらどうだ?」

「宿……?えっと、ちょうど今その宿を探していて……」


 どうにも話がかみ合っていないような気がしたが、それは気のせいではなかったらしい。

 相手も戸惑うように私を見ていて、その場に重い沈黙が流れ始めた。

 しばらくお互いに黙ったままでいると、その人は諦めたように深くため息を吐いた。


「……じゃあ、アンタはアタシに何をしてくれるんだ?」

「え……?」

「金がないんだろ?」

「お金なら、ありますけど……」


 私の返答を聞くと、その人は再び驚いたように目を見開いた。

 そして私の顔をじっと見つめて、困ったような表情を浮かべるのだった。


 私はその人の反応を見て、村の人たちに驚かれた時の光景が脳裏をよぎった。

 今この人は、まさにあの時村の人たちがしていた表情と同じものをしている。その時村の人たちには、『非常識だ』なんて言われたものだ。

 私は何か、とんでもない思い違いをしているのだろうか?

 そう思って先程の会話を思い出してみると、私の中で一つの結論が浮かび上がってきた。


「もしかして、宿に泊まるのってお金が必要なんですか?」

「……当たり前だろう。旅人なのにそんなことも知らないのか?」

「……」


 どういうことだろう。

 村にいた頃は、家にいたことでお金を要求されたことなどなかった。

 もしかすると、村に流れ着いた時に父がまとめて払っていたのだろうか?


 いや、今はそんなことを考えている場合ではないと頭を切り替えると、私はお金の入った小包を取り出して、その人に尋ねた。


「いくら払えば良いのでしょうか?」

「は……?いや、私じゃなくてだな……」

「……?」


 どういうことかよくわからなかったが、とりあえず小包から適当な量を掴み取ってその人に渡そうとすると、その人は慌てて私の手を押し返してきた。


「待てって!さすがに……」


 その人は、何かを言いかけてから周囲を見渡した。

 それにつられるように私も周囲に気を向けてみると、何やら周りの人たちが遠巻きにこちらを眺めてざわついていた。


「……はぁ。とりあえずついてこい」


 その人はそう言って私の手を取ると、その場から逃げるように村の中へと入っていったのだった。

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