第4話 ライラさん

 私が連れてこられたのは、小さな家だった。

 何やら刺激的でくらくらしそうな匂いが充満した家の中は、主にテーブルと椅子、そして大柄の男たちで埋め尽くされている。


「いらっしゃいませー!お好きな席におかけくださいね!」


 遠くの方で忙しそうに走り回っている人が、そう声を掛けてけてきた。

 その言葉通り近くの席に腰を掛けると、さっそく女の人が口を開いた。


「アタシはライラ。アンタは?」

「ペリットです」


 ライラさんは私の名前を聞いた途端、少し眉をひそめた。

 そしてテーブルをじっと眺めながら、何かを考え込むように固まってしまった。

 そのまま少しの沈黙が流れると、突然テーブルの上からドンという音が響き渡った。


「こちらビールとお冷になります!ご注文は何かございますか?」


 先程声を掛けてきた人が、水と何やら泡立った金色の水を置きながらそう言った。


「ご注文?」


 私が首を傾げながらそう聞くと、ライラさんが言葉を被せた。


「私もこいつも鹿肉のステーキでいい」

「かしこまりました!」


 それだけ言葉を交わすと、私のことは置いてけぼりのままその人は去って行ってしまった。

 ライラさんはその背中を見届けると、今度は私の方に向き直った。


「……で、その歳なのに旅してるんだろ?どこから来たんだ?」

「えっと、グレ村です」

「グレ村……知らないな」

「あっちの山奥にあるんですけど……」


 私が指差した方を見て、ライラさんは一つため息をついた。

 そしてしばらく頭を抱えてから、諦めるように言葉を出した。


「……わかった。アンタを引き取ってくれそうな奴の場所まで連れて行ってやる」

「……え?」

「それでいいだろ?」

「はい……」


 勢いに押されるようにわけもわからず頷くと、ライラさんはそれ以上何も喋ることはなかった。

 その後出てきた料理は、刺激的で不思議な味がして、とても美味しいものだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る