第7話 討伐
目が覚めると、外はまだ薄暗かった。
これから太陽が登ってくるのだろう。
周りを見回すと、アランとアリスはまだ眠っている。一つの敷布団と毛布しかないのだが、二人で綺麗に並んで寝ている。
二人を起こさないようにベッドに座り、これから先のことを考える。
考えるって言っても、やれることは全然無くて、ただ我慢するしかない。アランとアリスには期間が伸びることなんてないから、俺より先にランクが上になるだろう。はぁ、奴隷より低い主人なんて示しが付かなそうだな。
まぁ、二人が先にFランクに行ったら、その分稼ぎも増えるし、それはそれで良いかな。
とりあえず、今日も薬草採取に行こうかな。今は十分な量が取れやすいから、余った時間で2人に軽い護身術とか教えたりできるしな。
薬屋に通って、いち早く魔力を使えるようになりたいっていうのが一番なんだけど。
軽くこの先を決めたところで、太陽が出てきて外は明るくなっていた。
そこで、アランとアリスは起きてきた。
「「おはようございます。ご主人様」」
「あぁ、おはよう」
「申し訳ございません。奴隷である私たちが先に起きるべきでしたのに」
「いや、気にしてないから問題ない。というか、お前らは俺の奴隷ではあるが、パーティーの仲間でもあるからな。だから、ある程度の上下関係が有れば俺は結構気にしない」
「そうですか。わかりました」
「じゃあ、ご主人様じゃなくて、レインさんって呼んでも良いですか?」
「別にいいぞ」
「分かりました!」
そんな会話を済ませたところで、昨日の夕食の残り物を机の上に出す。
時間が経って、冷えた朝ごはんだったが、ちゃんと説明をしてたから誰も文句を言わずに食べている。そもそもアリスの料理の腕が高いからなのか、冷えても美味し料理だった。
食事中に俺が魔力を感じることができるまで、薬草採取を行うことを話した。二人は肯定的な意見だった。
アランは、自分も魔力を感じれるようになりたいと言っていて、もしメリナができると言ったらやろう、という話に落ち着いだ。
昨日と同じことをするために、南門を潜る。昼食のパンを3人分を買って森の入り口に向かう。
昼食なんて普通のGランクの冒険者だったら準備ができないはずだが、アリスのおかげで俺たちは3食取れるようになっている。
今まで3食に慣れていた俺からしたら、これはとても嬉しい点だ。
昼時には昨日と大体同じ量が取れた。ただ、薬屋から袋を返してもらうのを忘れたから、全て俺の影の中に入れてもらっている。
昼食のパンを食べる。飲み物は水筒一つを回して飲む。
アランとアリスの分の水筒も必要になるよな。これに関しては、緊急性が高くないから後回しにしようかな。
先行投資と言ってあまりにも散財しすぎたら、いざというときの保険がなくなりそうで怖いからな。
その後も薬草採取に取り組み、森の入り口付近の薬草は全て取り尽くした。
森に軽く入って、スライムが出てきたところで二人を呼び寄せる。
「二人には今からあのスライムを倒してもらう。問題ないか?」
「大丈夫です」「問題ないです」
「そうか、じゃあまずはアランに倒してもらおう」
影の中から一本のロングソードを取り出す。この剣は、パーティーを組む前まで使っていた剣だ。
正直思い出として残していたが、また日の目を見ることになるとは思わなかった。
「スライムは環境によって強さが変わるモンスターだ。食べ物や気候、その場にある魔力の強さとかで種類が変化する。ここのスライムは強くなれる環境が揃っていないから、ジョブを授かってない奴でも武器さえあれば倒せる弱さだ」
アランは、冒険者に夢を持っていたからすぐに倒すことができるだろう。
そう思いながら、アランにロングソードを渡す。
「いきます」
アランはそう言って、ロングソードを振りかざして、スライムのもとに向かう。
スライムは逃げようとするも、アランの方が早く、スライムは倒される。
スライムは、丸い物体「スライムコア」だけを残して、それ以外は地面に吸収された。アランはスライムが残した、スライムコアを手に持って戻ってくる。
「レインさん!俺やりましたよ!」
アランがとてもいい笑顔で言ってくる。
「よくやったな。じゃあ次はアリス。やってみようか」
「はい」
アリスなら、アインの勢いを見てやってくれるだろう。
その思惑が当たったのか、アランの時と同じように剣を振りかざし、スライムを倒した。
アリスもスライムコアを手に取り、戻ってきた。
「ご主人様。やってきました」
アリスは淡々とした表情でやってきたが、嬉しそうなのが隠しきれていない。
「アリス、よくやったぞ」
俺は二人の頭を撫でる。
二人は照れた様子で俺の手を受け入れた。
それからは基本的に薬草採取を行い、スライムが出た時に交互に倒させていった。
そしてホーンラビットという、角が生えた兎と出会った。こいつは逃げ足が早いから、俺の影で後ろ足を捕まえる。
「アラン、こいつ倒せるか?」
アランに改めて聞く。俺は冒険者になりたての頃、スライムは簡単に倒せるけど、こいつやゴブリンなど、血が出るやつを初めて倒すのは精神的に辛かった。
アランやアリスもおそらくそうだろう。だけどこれから冒険者を続けて行く上で、必ず経験しなければならないことだろう。
「わかりました。やってみます」
アランはスライムの時と同じようにホーンラビットのところに向かう。
しかし、スライムの時とは違って、剣を振り下ろす直前で止まる。
たぶん、目を合わせてしまったのだろう。奴隷の機能の一つのオーダーで強制させる事もできるが、そうやってしまうとこれから先もオーダーしなければならないことになりそうだ。
だから、ここはアランの気持ちで乗り越えていかなければならないと思う。
アランが止まったまま、少し時間が経った。その間も俺はホーンラビットを捕まえたままだった。
ホーンラビットは逃げる気力がなくなったのか、抵抗する力がとても弱くなっていた。
そんな時、アランが雄叫びをあげて剣を振り下ろす。
ホーンラビットは頭を潰され、生命を絶たれた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
激しく動いたわけでもないのに、アランは肩で息をする。
精神的疲労がすごいのだろう。気持ちはすごく分かる。
「アラン、よくやった。頑張ったな」
少し返り血を浴びているアランを抱きしめる。
アランは腕の中で段々と呼吸を落ち着かせて行く。
「ありがとうございます。落ち着きました」
アランはそう言って、俺の腕の中から離れていった。
アランが倒したホーンラビットを影の中に入れて、アリスのために別のホーンラビットを捕まえる。
アランと同じようにアリスに剣を渡す。
「アリス、こいつを倒せるか」
「はい、やってみます」
アリスはスライムの時と同じように淡々とホーンラビットのところに向かう。
そして、少しホーンラビットの前で固まると、そのまま剣を振り下ろす。振り下ろされた剣はホーンラビットの首を断つ。
「えっ…」
思わず動揺の声を出してしまった。
アランと同じ異世界から来たとは思えないほどの迷いのなさを感じた。
「アリス。よくやった、大丈夫か」
アリスはスライムの時と同じように、こちらに歩み寄ってくる。
「アランの時にイメージしてたので、大丈夫でした」
「それはすごいな」
準備万端で挑んだとしても、精神的疲労はすごいはずだ。
イメージと実際が違うことなんて珍しくないからな。
そんな考えもあり、アリスにもアランと同じように抱きしめる。
「アリス、本当によく頑張った」
アリスは腕の中で固まっている。
ちょっと困ったな。アリスはアランと違って動揺が見えないから、やめるタイミングを見失ってしまった。
アリスもアリスで一言も喋らないし、本当に困ったな。
「アリス?もう大丈夫か」
「えっ、あ、は、はい。落ち着きました。ありがとうございます」
アリスは慌てて俺から離れる。
落ち着いたからよかった。
その後、二人が狩ってくれたホーンラビットを解体する。
その時、アランが綺麗に殺せなくて謝ってきたが、そんなこと気にしてきた人が初めてで、少し返事に戸惑ってしまった。だけど、ちゃんと気にしてないことを説明した。
二人の目の前で解体が終わり、部位ごとに影の中に入れる。
「二人とも、これからこういうことには慣れてもらうから。よろしく頼む」
「「はい」」
****設定****
レインは、出来るだけアランとアリスを差別なく扱うようにしている。
たとえ、不必要なジョブを授かったとしても。
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