第6話 魔力

 薬屋に辿り着き、薬草を全て渡す。

「ありゃー、これはたくさん持ってきたねぇ」

「誰も薬草を取ってなかったみたいで、森の入り口だけでこんなに取れたんだ」

「そういえば最近は誰も受けてなかった気がするね。持ってきてくれた量を確認するから待っててね」

 そういえばって、ポーションの在庫はどうしてるんだ。ポーションが品薄になったり、高騰してる時は見たことないから不思議だ。


 それにしても、大通りを外れた道にある薬屋にしては、信じられないほどの種類がある。

 今までは回復ポーション以外興味を持たなかったから気づかなかったけど、毒消や石化解除薬などいろいろある。

 大通りに面してる薬屋は行ったことがあるけど、値段はここよりも高くて、種類もここより少なかった気がする。

「ご主人様!これ欲しいです!」

 薬草の確認を待ってる間に、文字を教えるとともに、置いてあるポーションを説明していると、とあるポーションの時にアランが言い出した。

 それは魔力回復ポーションだった。値段は3リースとポーションにしては少し高めだ。

「どうしてそれが欲しいんだ?」

「魔力を回復したら、その感覚で魔力の感覚を掴めると思って」

「それは無理だよ」

 カウンターの奥から薬屋が戻ってきて、アランに言った。


「どうしてですか」

「そりゃあ、消費してなくて回復するものがないんじゃあ、感覚は掴めないよね」

「たしかに…そうですね」

「君はまだジョブを授かってないみたいだけど、魔力ってものはね、どんなジョブだろうと関わってくるものなんだ。だから焦る必要はないよ」

「それは本当か!」

「いきなり大きな声を出さないでよ。びっくりしたじゃないか。今言ったことは本当だよ」

「そうか。大声をだして申し訳ない」

 彼女の話を聞いて、思わず大声を出してしまう。

 長生きしてる彼女が言うことだから間違い無いだろう。


 俺のジョブ「影使い」は魔力を使っている感覚がないことを彼女に伝える。

「へぇ、それはおかしいね。ちょっと使ってるとこを見せてよ」

 俺は影を立体化させ、差し出された彼女の手に巻きつける。

「私のジョブの特性上魔力の流れを見ることができるんだけど、魔力を使っているように見えるよ」

「嘘だろ?何も減ってる気がしないぞ」

「んー、多分君が持っている魔力の総量がとてつもなく多いとか、かなぁ」

「すごいじゃないですか!ご主人様!まさに主人公!」

 アランが何か言っていたが、恥ずかしいので無視することにする。


「今の俺は宝の持ち腐れってことか?」

「そうなるね」

「どうすれば俺は魔力を使えるようになるんだ」

 魔力を使えるようになれば、俺はさらに強くなれる気がして、質問をする。


「私に聞かれても答えられないよ。って言えるんだけど、君だし解決できそうな方法があるから協力するよ」

「本当か!ありがとう!」

 嬉しさのあまり、気がついたら俺は彼女の肩を掴めるほど詰め寄っていた。

 彼女はとても驚いた表情をしている。

 つい、彼女の顔をマジマジと見ていると、彼女は俺の手を強く振り払い、カウンターの奥の方を向く。

「今から解決できるかもしれないものを持ってくるから、そこで待ってて!」

 彼女が振り向いたままそう言って、カウンターの奥に進んでいった。


「ご主人様、女性に対していきなり距離を詰めるのはダメですよ。私たちの世界でしたらそれだけで訴えられてしまいます」

「そうなのか…その辺は疎いから助かる」

 さっきの行動に対して、アリスから注意された。

 今まで身近にいた女性はルシャだけで、一切笑ったりしなくて、よくわからないやつだった。だから、アリスのような注意は俺的にはありがたいな。


 カウンターの奥から、彼女が戻ってくる。

「ごめん。解決するためのポーションあるかと思ってたらなかったよ。また後日来てくれる?」

 彼女が申し訳なさそうな顔で言ってくる。

「いや、解決方法があると知れただけで満足している。それに後日またくれば良いだけの話だろう?」

「そうだね、素材はあるから時間さえくれればできると思うよ」

「感謝する。お金はいくら払えば良い?」

「大丈夫だよ。これは私の好意でやってることだからお金はいらないよ」

「そういうわけにもいかない」

「じゃあ、これからもこの店を贔屓にしてよ。それだけで十分だから」

「そう…なのか。あなたがそういうならそうしよう」

 今回の件が無くても、この薬屋に通うつもりだったからこれは嬉しい展開だ。


「あなたって…。私の名前はメリナ。恩人になるんだから名前ぐらい覚えて欲しいな」

「それもそうだな。メリナ、これからよろしく」

「よろしくね。レイン君」

 差し出されたメリナの手と握手を交わす。


「そういえば最初の要件を忘れてたね。ほらこれをギルドに持って行ってね」

 そう言ってメリナは手形を渡してくる。

 魔力のことで忘れていたけど、最初は薬草採取の件で来たんだった。

「それじゃあ、また後日此処に来る。今回はありがとな」

 俺たちは薬屋を後にして、ギルドに向かう。


 ギルドの受付に向かい、メリナからもらった手形を渡す。

「お疲れ様でした。これが今回の報酬となります」

 受付嬢はそう言って銅貨20枚を渡してくる。

 小さい範囲でたくさん生えていたおかげで、短い時間だが結構稼げた。

 今日の昼飯は豪勢にしたけど、今日の夜からは節約していくつもりだ。

 そのことを2人に伝えると、2人とも肯定的な意見だった。


 ギルドを後にして、少し早めに夕食の食材を買いに行こうとする。その時に受付嬢に呼び止められる。

「レインさん。大変申し訳ないのですが、ランクに関して伝えなければならないことがあります」

 なぜだろうか。とても嫌な予感がする。

 そうは思っていても、聞かないわけにもいかない。

「なんですか。教えてください」

「実は、2度目の冒険者登録を行った人は、Gランク期間が半年間に延長されるということがわかりました」


 は?意味がわからない。いや、分かってはいるが理解しようとする気にはなれない。

「そんなこと言ってなかったじゃないか!どうして急にそんなことになったんだ!」

 つい気持ちが昂って、声を荒げながら机に身を上げる。手を出したわけでもないが、周りにいる冒険者が俺と受付嬢の間に入って、俺を離そうとしてくる。

 受付嬢は彼らに離れるように言っている。

 俺は冒険者に軽く押さえつけられて、冷静になった気がする。

「Gランクの期間は1ヶ月じゃないのか?どうして延びたんだ?」

「冒険者の再登録なんて滅多にあることでは無くて、私たちも知らなかったんですが、再登録を行うと期間が半年に延長されるという規則がありました」

 受付嬢は冷静に淡々と事実を告げてくる。さらに彼女は口を開き、説明を続ける。

「元々、冒険者資格がなくなることなんて滅多にありえないことなんです。あるとしたら、それ相応の問題を起こした時しかありません。ですから、再登録をした際はこのような規則になっています」


 俺は頭を抱えた。ただでさえ1ヶ月は長いと感じていたのに、その6倍もの期間Gランクに拘束されるのは最悪だからだ。

「受付嬢さんでさえ知らない規則は、誰が見つけ出したんですか?」

 隣にいるアリスが聞いた。

 確かにそうだ。昨日まではこんな規則誰一人として知らなかったはずだ。でも、目の前にいる人は既に知っている。

 これはおかしいことだろう。だって、こんな情報を求める人なんて誰もいないはずだ。そう、俺を陥れようとするやつ以外。

 俺はオーウェン達とは関係を持ちたくなかったのに…。あいつらは俺を殺そうとしただけに限らず、ここまでの嫌がらせをしてくるのか。最低な奴らだ。

 受付嬢の回答は「教えることはできません」だった。ここで、ギルド長などのギルド関係者の名前が出るなら納得できるが、教えることはできないってなると、ますますあいつらの仕業だと確信できる。


 しかし、ここでオーウェン達に詰め寄ったところで何も変わらない。甘んじて受け入れるしかない。俺にはこの規則を変えれるほどの力やコネがないからな。流石に切り替えるしかない。

 俺はアランとアリスの二人を連れてギルドを出て行く。


 アリスに今日の売り上げを渡して食材を買ってもらう。俺とアランは後ろに着いていき、荷物持ちの役目を果たす。

 食材に関する知識はあったようで、質問もなく次々と食材を買って行く。

 その結果、10リースで満足いく食事ができた。

 15リースかかると思ってた夕食代が少し浮いてよかった。これからもアリスに食事を任せようと思う。


 今日はものすごく疲れた。精神的にすごく疲れた。

 近くの井戸で汲んだ水を使って水浴びを済ませた後、何かしようと思ったけど、もう今日は寝ることにする。

 食材とともに買っていた、敷布団と毛布を陰から出して、アランとアリスに渡す。俺はベッドに入り込んで寝ることにする。

 太陽が落ちた時にはもうベッドに入り、夢の世界に入ろうとしていた。

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