第29話 恐るべき野望。其の肆

魔人が自らを供物として捧げた直後、魔界より【ケルベロス】はこの世界に召喚された。


魔界の深層でこの魔人が懐いていた野望を感じ取り、自分を召喚させる様に永い時間を使って仕向けさせた。

魔界での闘争に飽きて来ていた所に感じ取った邪心…新たな世界での闘争を望んだ我の野望を現実のものとする為に少しづつ…少しづつ…あの最後の様子だと魔人め…何も気が付いていなかった様だな。

一度目の招福こそ失敗したが、今度は成功させる為に準備に時間を掛けさせた。途中、色々とあった様だが、最後は自らを供物として召喚をさせた。

…良くやったと褒めてやろう…魔人よ…貴様の望み通りにこの世界を血で染め上げてやろう…先ずは人族から…な。


その瞬間にケルベロスは出口に魔力波を飛ばした…坑道は全て破壊された。




◆◆◆◆◆◆◆◆




「ケ…ケルベロスだと…」


パトリックは驚愕の表情で【ケルベロス】を見ていた。

黒紫の毛が全身を覆い、頭は三つ…そのどれもに凶悪な牙が覗いている。眼は血の色の様な真っ赤な瞳だ。大きさも10m以上は有ろうかという巨体で、頑丈そうな太い脚には鋭利で大きな爪が付いている。そしてまるでドラゴンの様な尻尾を生やしている。


「怯むな!!攻撃を加えろ!!」


ミカエルは連れて来た先方隊に攻撃を促す。弓や魔法を使える者たちは【ケルベロス】に攻撃を仕掛けるが、【ケルベロス】の張った障壁に阻まれてしまった。

ミカエルは一気に【ケルベロス】に近付き細身の剣で突こうとしたが、やはり障壁に阻まれて触る事すら出来ない。

だが、その直後に【ケルベロス】の張った障壁が破られる。サルナスが朱刃を使った斬撃で障壁を破ったのだ。


「攻撃を放て!!」


ミカエルは自らも攻撃魔法であるアイスランスを放ちながら激を飛ばす。

パトリックも攻撃に加わりファイヤーアローを放ちながら突撃していた。


しかしながらその攻撃も【ケルベロス】にはほとんど通じなかった。

魔法は【ケルベロス】の体毛に当たると同時にかき消され、パトリックの斬撃は身体に傷一つ付ける事が出来ない。

【ケルベロス】が身に纏っている魔気が攻撃を押さえ込んでいるのだ。


『ヴォオオオオ!!!』


【ケルベロス】は鬱陶しいとばかりに咆哮で周りの騎士団や冒険者たちを威圧した。

威圧されたほとんどの人間は倒れ込んでいたがパトリックとミカエルはなんとか踏み止まっていた。


その時、突然【ケルベロス】に魔法の斬撃がブチ当たる。


「プラズマブレイド!!!」


サルナスの一撃は【ケルベロス】に傷を追わせていた。

追わせた傷は直ぐに再生してしまったが、【ケルベロス】に敵だと認識させるには充分過ぎる一撃であった。


「俺が相手になってやる…掛かってこい」


『グルアアアア!!!!!!』


サルナスの挑発に乗る様に【ケルベロス】が前脚でサルナスを切り裂こうとする。

サルナスはそれをヒラリと交わしながら、その前脚を朱刃で斬り付けた。

その後も何度か切り裂こうとするがサルナスは何度も交わしながらカウンター攻撃を続けていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆



俺は【ケルベロス】出現の瞬間にアインの魔眼のサブスキル〔魔獣解析〕と〔弱点看破〕を併用した鑑定をかけていた。

本来であればレベルの高い【ケルベロス】の鑑定は不可能なのだが、アインのスキル『叡智』のサブスキル〔分列思考〕を使い、それぞれのスキルを合わせて使う事でステータス鑑定が出来るのだ。


種族︰エルダーケルベロス(希少魔界獣)


レベル:2981

HP:135490/135490

MP:109542/109542

攻撃力:164395

防御力:118138

回避:129926

幸運:2981

スキル:黄泉の障壁、魔界炎の息吹、闇の咆哮、闇の爪、神殺しの牙、状態異常付与、状態異常無効、超再生、暗黒雷の波動、闇眼、超嗅覚


黄泉の障壁:魔力により張られる障壁。弱者は障壁を超える事は出来ない。


魔界炎の息吹:魔界の黒炎を吐き出し敵を焼き尽くす。


闇の咆哮:弱者はこの咆哮で身体が動かなくなる。


闇の爪:あらゆる状態異常を起こさせる爪での一撃。


神殺しの牙:咬まれるだけで無く、牙によるかすり傷でもあらゆる状態異常起こさせる。


暗黒雷の波動:闇の波動により暗黒雷を起こし敵に落とす範囲攻撃。攻撃を受けるとダメージの他に麻痺状態を引き起こす。


闇眼:先にこの眼に見られると何処に隠れようとも見つけ出される。



デタラメ過ぎるステータス…流石に唖然とする。

魔界より召喚されるだけあり、スキルもとんでも無い物ばかりだ。

攻撃を貰えば状態異常になるのも厄介この上ない。

俺自身、〔魔獣力倍化〕のサブスキルでかなり強くなったはずだが比べると流石に及ばないステータスである。


【サルナス】

職業:魔獣使役(ビーストテイマー)

ランク:C

レベル:148


HP:48567/50120 644【+16】【+8350】【+1230】【+2290】《×4.0》

MP:50482/52148 291【+461】【+9725】【+1580】【+980】《×4.0》

攻撃力:133125/664【+16】【+7396】【+1102】【+6775】(+2030+900)《✕1.7+1.35+4.0》

防御力:90976/561【+7918】(+900)《✕1.25+3.2+1.25+4.0》

回避:85843/168【+7596】(+652)《✕1.75+3.2+1.25+4.0》

幸運:8064/832【+276】《×2.0+4.0》

スキル:魔獣武装(ビーストアームス)Lv5、〔ステータス統合〕、〔偽装〕、〔看破〕、〔魔獣力倍化〕、〔魔獣平伏〕、鑑定Lv4、《鬼道》、《金剛》、《疾風》、《強奪》、《鉄壁》、《雷光》、ウォーターボールLv3、ヒールウォーターLv8、シャドーミストLv2、【

ファイヤーブレスLv10】、【物攻耐性LvMAX】、【魔攻耐性LvMAX】、【韋駄天】、【護守羅】、【

超再生】、【状態異常耐性Lv6】、【筋強化Lv6】、【ファイヤーフィストLv10】、【サンダーフィストLv10】、【ファイヤーブレイドLv5】、【プラズマブレイドLv5】、【アイスブロッカーLv9】、【オーガの怒り】、【俊敏】、【身交わし】、【認識阻害】、【自動修復】、【雷電】、【毒】、【麻痺】、【魔眼Lv4〔魔素砲Lv10〕〔弱点看破Lv9〕〔範囲認識Lv5〕〔魔術解析Lv3〕〔魔獣解析Lv2〕】、【叡智Lv5〔超高速思考〕〔分列思考〕〔予測思考〕、〔司書〕 】、【甲殻】、【身体強化Lv8】、【踏み付け】、【蹴り飛ばし】、 【体当たり】、【金剛力】

装備:剛腕の腕輪、ハイオークのブーツ、金剛の腕輪、疾風の首輪、剛鬼刀、将軍の鎧、ワーウルフマスターの指輪、雷光の指輪、招福のガントレット、魔素の指輪、【角の首飾り】、【ウラヌスナックル】



これ程のステータスを持ってしても【ケルベロス】のステータスには及ばないのだ。

しかしながら、ガッツとアインとブラッドのスキルを攻撃力に全振りしたので、攻撃力だけは何とかダメージを与えられそうな数値ではある。

しかし、回避のステータスに開きが有るにも関わらず、何故俺は奴の攻撃を避けれるのか?…それはアインの叡智のサブスキルである〔予測思考〕によるものである。

【ケルベロス】の攻撃を〔司書〕による【アーカイブ】を使った〔予測思考〕をする事で、【ケルベロス】による攻撃を上手く避けながらカウンター攻撃を加えていたのだ。更にアインのスキル『身交わし』の恩恵も受けているようだ。

もちろん奴の超再生により直ぐに傷は修復されるが、ダメージは受けて居るのでHPは減り続けるのだ。


ある程度までダメージを蓄積させたいので、地味だがこの方法でやるしか無い。それがアインの魔眼のサブスキル〔弱点看破〕が導いた答えだからである。


苛立った【ケルベロス】はスキル『魔界炎の息吹』を放って来る。

3つの頭から吐き出されるので中々厄介な攻撃であるが、それも〔予測思考〕によって予めタイミングも炎のエリアや方向も解っているので楽に交わせる。

そして、魔素砲を撃ち込んでダメージを与える。


攻撃を当てられない【ケルベロス】は更に苛立って攻撃がどんどん雑になって行く。

すると更に隙が出来るのでこちらの攻撃が当たり【ケルベロス】の攻撃は簡単に避けれてしまう…この悪循環によりこちらの有利な展開で【ケルベロス】に対しての攻撃が進んで行く。


「パトリックさん!ミカエルさん!奴には範囲攻撃が有ります!他の人達を安全な場所にお願いします!!」


申し訳無いがこれ以上他の人間に足を引っ張られたくないので安全な場所まで逃げて欲しい。まだ【ケルベロス】には『暗黒雷の波動』という範囲攻撃が有るのだから。


意図を汲んで直ぐに動き出すパトリックさんとミカエルさんは流石だった。やはりAクラスば伊達じゃない。


コレで安心して【ケルベロス】に対峙出来る。後は奴のHPを削れるだけ削り、仕上げに掛かるだけである。

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